夏色

□if.second
1ページ/1ページ




もしも夢主が女の子だったら。





「おっはよー狭霧ーーっ」

『っ…た、じま…重い!!!』

「ぎゃっ」



カエルがつぶれたような声がしたが、気にせずお弁当に箸を進めた。



「よー、狭霧ー」

『泉……飼い犬には首輪をつけておくことを勧めるわ、今度プレゼントしましょうか』

「お、おお……考えとくわ」



目の据わっている蜜弥に後ずさりしそうになるが、床と対面している田島に納得がいった。



「田島、お前またやったな?」

「だって狭霧いい匂いすんだもんよー」

「だからってくっつくな!」

『(うるさいなあ…)』



黙々と箸を進めるその顔にうっすらと怒りマークが浮かんでいるのは気のせいだろうか。

田島が蜜弥が食べる弁当を覗いて歓喜の声をあげた。



「すっげうまそー!一個ちょうだい!」

『やだ』

「("やだ"って…かわい)
それって自分で作ってんだよな」

『そうだけど』

「朝練とかあんのに、睡眠時間どんくらいなわけ?」

『何で会話に入ってくるの、阿部』

「別にいーじゃん」



泉の横から顔を覗かせた阿部に眉根を寄せる。これ以上人に囲まれるのが嫌らしい。



「で?睡眠時間は?」

『………三時間以上』

「三時間!?おま、いつか死ぬんじゃねえの!?」

『死なないわよ失礼ね』



驚く阿部にムッとした狭霧。
どさくさにまぎれて弁当に手を伸ばそうとした田島の手をたたき、少ししか食べていない弁当を片づけた。



「え、もう食べねえの?」

『食欲が失せた』



誰かさん達のせいで、と三人を睨むと踵を返し教室から出て行った。



「あーあー…怒らせたー」

「お前が最初だろ!」

「でも怒ってても可愛くね?」


















「蜜弥、どうしたの?」

『………やっぱり千代は癒される……』

「え?え?」

『いや、気にしないで。ちょっとムカついただけだから』



クラスを出て七組に行ってみると、幼馴染は友人とほかの場所にお昼を食べているらしく、大体予想はつくので屋上に走った。

案の定屋上にいた幼馴染は、いきなり私が来たことに驚いたようだ。
一緒にいた友人二人に謝罪をして千代を少し借りた。



『あー…落ち着く』

「蜜弥ってたまに甘えん坊だよね、見た目しっかり者なのに」

『……周りの人は他人を勝手に偶像化するのよ』

「あはは」



私の方が少し背が高いため、すんなり収まる千代を抱きしめて癒しを堪能する。
後ろにいる千代の友達が驚いて騒いでるようだけど、千代はこんな私に順応しているので気にしてないみたい。



『ふー……ありがと、ごめんね。友達にも謝っといて』

「うん。あ、一緒に食べようよ」

『お弁当教室だし、私がいたら二人とも萎縮するでしょ。じゃあね』

「あ、」



何故か昔から女の子には嫌われてるのよね。千代は違うって言ってるけど。

中学も遠巻きに見られるだけだし、千代とは幼馴染だから仲がいいだけだし。



『(ま……怖がられてる理由は私なんでしょうけど…)』



本ばっかり読んでるし、笑わないし。
……言っててむなしくなってきたぞ。





「ちちちち、千代ーーっ!」

「わっ」

「あ、あんた狭霧さんとどういう関係なの!?」

「だ、抱き合ってたよね…?」

「幼馴染だってばー!前も言ったでしょー!」

「あれはただの幼馴染じゃなかった…!」

「蜜弥ってたまにああなるから…」

「へえ…意外ー…狭霧さんって近づき難いよねー、綺麗過ぎて」

「うんうん!綺麗だよねー細いし背高いし、色白いし…クールビューティー!」


「(本人はただの男嫌いでムッとしてるだけなんだけど…)」














中学ではシニアのマネジ。偶に練習に混ざるけれど試合には当然出してはもらえない。

本来シニアにマネジなんて必要ないけど、頼み込んで頼み込んで……やっとなれた。

高校では野球にかかわりたくなかったけど、やっぱりダメみたいで千代に誘われたこともあって今、野球部のマネジメントをやっている。



『(当たり前だけど…当たり前だけど…!!!
男ばっかは耐えられない……!!)
千代がいてくれてなかったら私死んでるわね…』



苦手だと分かっていながら抱きついてきたりするやつもいるしね…。

だけどまあ…最近はマシになってきたような気がするのは、やはり野球部員達のおかげなのか。



「あ!いたっ!狭霧ー!さっきの弁当くれよー!」

「狭霧、さっきは悪かったな」

「田島、てめ…!離れろっての!」



『………(やっぱり、気のせいかな…)』



「なーなー狭霧ー?」

『うるさい離れろ(絶対気のせいだ)』




やっぱり男は嫌いな生き物だった。







- end -
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ