夏色

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「何言ってたの?」
『……可能性を否定するなと』
「なるほどねー、さすがだわ」
『いえ、それで俺は何をすれば?』
「みんなと合流して山菜採り」
『はい』



歩くスピードを速め、山菜を採っている志賀達のところへと向かった。
山を少し上ると、栄口や西広、沖が見つかった。



「あ、終わったの?」
『ああ』
「あれ?阿部達は?」
『まだグラウンド。五時には戻る』



どんなの採ればいいんだ?と三人の手を覗きこめば、詳しく教えてくれた。
今の時期はフキノトウやゼンマイが採れるらしい。



『へー…』
「あっ!狭霧!見ろよーコレ!」
『…田島、走ったらころ「うおわっ!」んだな』
「え、そんなに冷静に言う事!?田島大丈夫か!?」
「お、おお〜…」
『まあ、こんだけぬかるんでる所走ったら転ぶよな』
「早く言えよ!」
『知るか』



言う前に転んだんだろ。
もっともだ、と頷く沖達。
蜜弥は仕方なしに田島へと歩み寄り、用事があったことを指摘した。



「そーそー!見てほら!」
『………』
「た、田島…何それ…」
「これ食えると思うー?」



手にもったのは色鮮やかなキノコ。
見るからに毒キノコ。

それを持ったままにこやかに笑う田島を見た蜜弥は、毒キノコを掴んであらぬ方向へと投げた。
控えといえど流石は投手。あっという間に見えなくなった。



「あーっ!何すんだよー!」

『明らかに毒キノコ。バカか、食べられるやつを探すぞ』



ぐちぐちと呟く田島を綺麗にスルーし、さり気なく嫌味をいり交えて散策を促した。

宿舎に戻り、山盛りに採ってきた山菜を溶かした薄力粉につけて揚げていく。
隣で栄口がフキノトウに愛着を持ったのか、愛おしそうに見てキスをしていた。

揚げたての山菜が美味しそうに見えたのだろう、田島が堂々とつまみぐい宣言をして手を伸ばしたが、その指は逆に志賀の箸につままれた。



「スポーツで重要な脳内ホルモンは三つあると俺は思ってるんだよね。
この三つのホルモンを、狭霧、知ってる?」
『チロトロピン、コルチコトロピン、ドーパミン』
「正解」
「な、なんで知ってんの?」
「すげー…」



答えた一つ目から順に説明している間、残りの山菜を揚げていく。
千代がじゃがいもの皮をむいていたので後でそっちも手伝おう。



『手伝います』
「狭霧君は、話し聞かなくていいの?」
『知ってますから』



出来上がった山菜やサラダを皿に盛り付け、長いテーブルに並べていく。
全員が席に着いたところで、先に監督や千代の分を避けておく。



「ありがとう狭霧君」
『なんとなく予想はつきますから』
「全員食事を見て」



志賀の声に全員の目が湯気を立てる食事に釘づけになる。
水谷、西広の声をきっかけに、"美味そう"とどんどん大きくなっていく。

百枝の合図を初めに、すばやく箸でつまんでいく野球児達。
その表情はとても楽しそうだ。



『………(よく食うな…)』



どんどん無くなる皿の食事に、唖然としながら箸をゆっくりと進ませる。
綺麗に空っぽになったところで、みんなの顔は満足そうだ。

自分も食べ終え、手際良く皿を重ねてまとめて流しへと運ぶ。



『片付けます』
「ありがとう!狭霧君、ちゃんと食べたの?」
『十分食べました。これ以上は無理です』
「そう?普通の量だった気がするんだけど…?」



気のせいです、と言い張る蜜弥に百枝は溜息をついて、明日は食べてね、と言い残すが、絶対に無理だ、と内心思った。

元々小食な上に、あれだけハイスピードで食べさせられるのはキツイのだろう。





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