夏色

□08
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「あーあちー!」
『だるい…』



まだ五月にもなっていないのにも関わらずこの暑さ。あれか、温暖化か。
いや…今が体育だからか。

今日は五組と九組の合同授業。
なんでさほど近くもないクラスと合同なのかに疑問が沸く。知ってたら仮病でも使って休んだのに……九組にはヤバイのが結構いる。
泉君に田島に三橋君…野球部勢ぞろい。しかも今回に限って野球とか……。



「つーかこっち不利すぎだろ…野球部三人に対してこっちゼロだぞ…」
『その分他の運動部がいるだろ』
「野球は専門外のが多いだろ…それなりに打って走れるのはいるから攻撃はOKだとしても…守備が……」



まあ投手は仕方ないよな…野球やってるやつしか大抵しないし。しかも向こうはあの浮くストレートの三橋君だ。



「狭霧!頼む!お前投手やってくれ!」
『は?』
「これで負けたら明日から五組の体育しばらくマラソンなんだよ!」



マラソン…それはそれで嫌だな。
だけど投手やれと言われても…何故に俺。



『何で俺が…』
「お前野球やってたんだろ!?坂本に聞いた!」
「おわっ睨むなよー!怖いぜ蜜弥ちゃーん」
『もういい、お前とは短い付き合いだったな』
「わーっ!ちょ、待て!悪かった!」



そう言えばこいつにチラッと話したんだっけ…忘れてた。
でもまさか話すとは…俺の人を見る目も腐ったかな…。



「マジ悪い!つい口が滑って…」
『………』
「え、ちょ…蜜弥さん?マジで怒ってます?」
『………』
「無視するなよー!ほんとごめんなさいっ!」



………なんか泣きそうだぞ、おい。反応が面白くてやりすぎたか…仕方ない。



『はあ…まあいい。だから男が土下座するな泣くな』
「ううっ、俺メンタル弱いんだからいじめんなよー…」
『 知 る か 』
「うわーーーっ!」
『はいはい、冗談だ冗談。だから逃げるな』



サッカー部員がメンタル弱いって…やばくないかソレ。
聞けば試合ではどうにかなるそうだ。そういえば、こいつ一年にしてレギュラー候補だったな。
大丈夫か西浦サッカー部。



「狭霧ー!マジで頼む!マラソンだけじゃなくて九組と賭けてんだよー!」
「負けたら昼飯一週間おごりなんだ!この通り!」
『……負けても俺にメリット、デメリットなし。よって嫌だ』
「なんだその機械的な答え!しかも最後は我がままだろ!」
「んじゃ蜜弥!お前が出てくれて勝ったら、俺らが一つ何でも言うこと聞く!それでどうだ!?」



坂本復活。
それはそうと……何でもねえ…別に聞いてもらうことはないんだが…。
そういえばクラス男子が全員目の色を変えた。
期間は一年だの、クラスの男子全員が聞くだの………いい加減鬱陶しい。



『……やればいいんだろ、やれば』
「おおっ!ありがてえ!」
「サンキュー狭霧ーっっ!」
『(負けても責任は取らん)』
「蜜弥…お前今心の中で呟かなかったか?」
『気のせいだ』



とっとと終わらせよう。
まあ、負けても、とは言ったが…そこは元スポーツマン。やるからには勝ちたい。
特に、思い入れの強い野球では。だが本気は出さずに、本気に見える程度の力で。



「あっ、五組の投手狭霧だっ!」
「あいつって野球上手いだろ。ヤバくね?」
「泉知ってんの!?」
「この間小学生と草野球してた。結構上手かったぜ」
「草野球かよー!でも狭霧はかなり強いよ。俺中学の時絶対一回会ってると思う!」



蜜弥がマウンドに立つと、田島が興奮気味に声をあげると、その横にいた泉が冷静な顔で呟いた。
なんたって負けるとマラソン一週間。冗談じゃない。



「次誰だっけ?」
「大橋!卓球部の!」
「その次田島だろ。ぜってー打って来いよ!」
「おう!」



大橋と呼ばれた男はバッドを構えた。卓球部に必要なのは見極める目。ボールの大きさ、スピードは違うにしてもこれまでヒットを打っている。
大して変わらないだろ、と高をくくって挑んだせいか、ボールはバッドにかすりもしなかった。



「(早い、のか…?三橋の球に見慣れて全然わかんねー)」



早々にアウトとなった大橋の次は、野球部希代の星田島。



『…げ…』



早速来たよ、野球部。田島の次は泉君か?
九組よ、そんなにマラソンが嫌か。嫌だろうなあ、うちも同じだ。
さっさと、終わらすかな…。



「っ!(はや…マシンと大して変んねえ気がする……でも絶対打つ!)」
『(…何か田島に火つけた気がする。
田島は荒・シーの四番だったし……打たれるのも嫌だが本気出すのも嫌だな…)』
「狭霧ーーっっ!お前のこと知ってんだぞ!本気だせよ!」
『……なんだ、もう分かってるのか。
(嘘だとしても、薄々感づいてるだろうし……よし、打たれるのは嫌だ)』



足を上げ、ボールを持った腕を大きく回した。
投げるのは中学校以来だが、鈍ってはいないらしい。本気とはいかないまでも、6割の力で投げられた。
その証拠に……田島が空振りした。ストレートだと思ったんだろうが、俺のは紛らわしい。全てがストレートと同じ軌道で、途中から変化するから。



「あーー…くっそー!」
「田島が空振り…」
『はー…疲れた』



そのあとも泉君でアウトを取りようやくのチェンジ。
俺も一回だけ攻撃に回ることになってるから、なるべく普通に軽くヒットを出す。

多分三橋の浮くストレート。キャッチの田島が驚いてたから。
一回見るだけで十分だ、三橋の球は高校生にしては遅すぎる。

同点の状態から一点、二点と得点を重ね、終わるころには4−1で勝った。
喜んで抱きついてくるやつはいるし、頭を思い切り混ぜるやつもいるし……勝ったら勝ったで鬱陶しいな、お前ら!



「狭霧ー!お前、シニアにいなかった!?」
『……は?』



チャイムが鳴り、片づけを任せて俺は訝しげに見てくる視線から逃げるようにしてグラウンドを去った。
しかし、まさか昼休み開始一分後に来るとは……予想してなかった。


やってきたのは、輝く笑顔の田島と、その後ろに眉間に皺を寄せた泉君、おどおどとした態度の三橋。




超ピンチ




(さすがに万事休すか…?)(あー…やっべ)

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