夏色

□07
1ページ/1ページ





今から思えば今日は悪いことばかりだった。朝は少し寝坊して急いでいたら壁に足をぶつけてコップを落としてぶつけた足に落として、牛乳をこぼして臭くなった。(洗って着替えたら遅刻ギリギリだった)
教室では坂本に首を絞められた(名前覚えたかー?って)。
いつの間にか消しゴムやらペンやらは無くなるし。
そして所謂"呼び出し"。


「いや…それのどこが悪い事なんだ?」


パックのカフェオレを飲みながらそう尋ねるのは坂本。

この間のことをきっかけによく話すようになった。最近ではお昼もよく一緒に食べるが、俺は一人で静かにのんびりと食べるタイプ。

坂本は教室で賑やかに食べるタイプなのに、態々友人たちと離れてまで一緒に食べるこいつを本当に物好きだと毎回感心する。



「普通なら喜ぶぜ?てかそれ他の男子に言ったらキレるから」
『そんなもんか…?悪かったな普通じゃなくて』
「いやいや、そこまで言ってない言ってない」



呆れたように手を横に振る坂本に小さく息をつく。



『まあ…普通じゃないかもな……昔から女は苦手なんだ』
「あ?でもほら七組の……えー…野球部のマネの…」
『千代のことか』
「そーそー。その子とは普通じゃん、しかも名前呼びで」



ニヒヒと下品な笑みを浮かべる坂本。正直に気持ち悪いと言えば大してショックを受けてなさそうにヒデェと呟く。



『千代とは小さいころからの仲だ、所謂幼馴染。
今更お互い名字呼びとか気持ち悪いだろ…勿論恋愛感情は一切なし』



スポーツドリンクを片手にそう告げるとつまらなさそうに相槌を打った。



「じゃあさ、今日呼び出しされた子はどんな子だった?」
『どんなって…』



前に乗りだすようにして聞いてくる勢いに少し驚いた。
こいつはモテそうだから大して女に興味がないと思ったが……。



「色々あんじゃん!可愛いとか色が白かったとか…」
『別に…ほら、入学式の新入生代表の子だよ』
「うっそ、マジで!?代表って愛沢美久だろ!結構可愛いって有名だぞ!?」



そう言えば…入学式の時他の男子をそんなこと言ってたっけか……つーかこいつって意外と興味深々だな。ま、確かに可愛い部類には入ってたとは…思う。



「はー…勿体ねー…てかマジで女の子苦手なんだな」
『まーな…昔女の人に遊ばれて…それ以来…』
「……遊…?」



小さく息をつくと、何故か坂本が口をぽかんと開けたまま茫然としていた。
首を傾げると、こいつが何に反応しているかが分かった。



『お前の考えている意味ではないからな。決して。
悪戯の方の遊ばれた、だ』
「あ、なるほど……焦った」
『当たり前だろう馬鹿が』



息を吐き出す坂本に呆れた目を送ると乾いた笑いを浮かべた。
続きを促されたがこれ以上は話したくないと言うと、だだをこねられたので仕方なしに口を開く。



『親の仕事場に小さいころからついて行ってたんだが、その職場で毎回毎回いじられてな…』
「へー、親って何やってんの?」
『………普通だ』
「何だよ普通って!?」



言えるか。ただでさえ3LDKの広い部屋を高校生の一人暮らしに買う親だぞ。
言ったら言ったで絶対引かれるのが目に見えてる。



「なんだよ、教えてくれてもいいじゃねーか!」
『はいはい、また今度な。教室戻るぞ』



あと五分で予鈴が鳴る、と言えば口を尖らせて大人しく従った。
なんとかはぐらせたな…良かった。
もうすぐ教室というところで前から衝撃が襲ってきた。
胸の当たりの衝撃だったので小柄な奴…女子かと思えば、下に履くのは黒いズボン。



「いってー…あ、悪い!怪我しなかったか?」
『ああ、大丈夫だ…』



どこかで聞いたことのある声だと思えば野球部田島。
こいつには一度会ったことがあるのであんまり会いたくなかったのに……。



「あー!お前狭霧!悪かったな、ぶつかって!」
『いや…気にしてないが……どうかしたのか?』
「んー今鬼ごしてんだ、クラスの男子と。捕まったら一週間パシリなんだぜ」
『それは…大変だな』



一週間といえど高校男子のパシリは意外ときつそうだ。
無理難題を押し付けられそうだからな。



「いたっ!田島!覚悟しやがれ!」
「おわっやべー!ちょ、盾になって狭霧!」
『はっ!?ちょ、』



向かい合って話していた体制から背後に回られ思わず慌てる。
すぐに田島を追いかけていた男子が走ってきた。



「田島ー!…って、」
「ちょ、おい…あいつって3組の狭霧だよな?」
「くっそーイケメンオーラなんぞだしやがって…!」



ちょ、待てコラ。誰がいつイケメンオーラなんぞ出した。
しかしなんで俺の顔を見た途端に動きをとめたんだか……。



「お?なんかしんねーけどラッキー!じゃーな狭霧!」
『おー…』



嵐のように過ぎ去った田島の背中はもう見えず。
なんだったんだとしばらく呆けていた。






色男と女嫌い






(あ、そういやあいつ中学の頃会ったなー)(どこでだっけ?)(………あーーっ!!)
(((田島(君)五月蠅い)))
↑監督・阿部・泉

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ