夏色

□05
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あーねみー…。




『……ふぁ……』
「こらー狭霧ー、堂々と欠伸するなー」
『すみません、先生の声がいいもので……』
「嘘つけ、こら」



只今授業真っ最中。担任の田村はどうやら社会担当のようで、高校最初の授業だからという理由で今回は中学の復習らしい。
どれもこれも覚えたもので暇すぎだからなのか、つい欠伸が出た。



『次は数学、か……って』



机の中を見ても鞄の中を見ても、次の教科である数学の本が見つからなかった。
あー…完璧に忘れたな、これは。

問題は誰に借りるか、だ。自慢ではないがこの高校に友人と呼べるものは少ない、というより片手で足りるか足りないかだ。……悲しいな、俺。



『はあ、千代に借りるか……』



確か千代は七組……と思いながら教室へ向かう。千代が持ってなかったらどうするか……。



『あー…と、ち…篠岡いるか…?』
「えっ!?あ、ち、千代ー!!」



七組から出てきた女子に千代を聞くと何故か顔を赤くしてわたわたと慌てて呼んでくれた。
……別にそんなに急がなくてもいいんだが。



「千代、千代!お客さん!」
「え、誰ー?」
「五組の狭霧君!あんたいつの間に知り合い!?」
「蜜弥君?どうしたんだろー」
「"蜜弥君"!?名前呼び!?」
「お、幼馴染だからだよー」

『っくしゅ、』



なんだ、風邪か?急にくしゃみが……。



「きゃーっくしゃみした!くしゃみ!」
「かわいいー!」
「狭霧君、かっこいいよねー!」
「す、凄い人気なんだね、…」
「あんた知らないの!?
三組の狭霧蜜弥君。長身で性格も超クールだから人気なんだよ!?しかもあのルックス!」
「あははは……あ、わたし呼ばれてるから」



あ、来た。なんか話してたみたいだったけど……。



「お待たせー蜜弥君」
『いや、話してたみたいだけど大丈夫だったか?』
「え、あ、あはははは、大丈夫だよー。どうしたの?」
『ああ、数学の教科書あったら貸して欲しい…』
《私のどうぞっっ!!》
『…ぇ、』



最後まで言い切る前に七組の女子どころか廊下を歩いていた女子が一斉に数学の教科書を出してきた。
びっくりしすぎて声が出なかった……。



『………ぁー……どうすればいい?』
「わ、わたしに聞かれても……」



だよな……。とりあえず教科書は千代に借りるとして。



『ありがたいけど、教科書は篠岡に借りるから……悪いな』
《いいいいいえっっ!!》
『(何でこんなにも息がぴったり…)』
「あ、ははは…それじゃあ教科書持ってくるねー…」
『あ、ああ……悪いな』



苦笑をしつつも教科書を取りに言ってくれた千代に心の中で感謝した。
早くここから離れたい………。
教科書をもらって礼を言い、すばやく離れた。
なんだかどっと疲れた……。女は昔から苦手なんだよなぁ……。


























睡魔に負けて寝ていた授業も終わったようで、欠伸をしながら次の準備をしているとクラスの女子が騒がしくなった。

"狭霧蜜弥"

どうやらそいつが話しの中心らしい。
どこかで聞いたような名前だと思ったら、どうやら呼ばれているのは野球部のマネの篠岡だったらしく、ドアの方に近づいていくのを目で追っていけば、背の高い男は見覚えのある顔だった。

始業式の日、野球部の監督に引っ張られてきたやつ。

柔らかそうな蜂蜜色っぽい金髪に髪より少しこゆい色の目が印象的だった。
あいつと少し話して戻ってきた篠岡に声をかけてみた。



「篠岡」
「阿部君、どうかしたの?」
「今の…」
「蜜弥君?教科書借りに来たんだけど……知り合い?」
「…いや、前に一回部活に来たんだ。なあ篠岡、あいつ野球やってたか?」
「うん、やってたよー!強かったんだよー蜜弥君」
「中学は違う、よな」
「うん、確か●●…だったかな?」
「●●……聞いたことねえな」
「蜜弥君はシニアだよー。名前は教えてくれなかったから分からないけど」
「そうか…さんきゅ」



シニア……狭霧蜜弥なんて名前聞いたことねえし姿も見たことねえな。
それほど強いとこじゃなかったのか?
だったらもう高校ではやらないって言ったのも納得できる。
だけどこれからに向けて人数を増やしておくのには問題ねえ。
下手なら練習すればいいだけだ。



「一応誘ってみるか」



そのころ丁度、何かを感じ取ったのか背中を震わせていた狭霧に俺は気付かない。






嫌な予感。





(なんだ……?)(なんか……嫌な予感がする)(今日は早めに帰るか)
(狭霧ー!お前今日俺の手伝いなー)(放課後残っとけよー)
(……こんな時に…)

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