夏色

□04
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さてさてさて……どーしましょうか、この状況。


前回のあらすじー。
野球部に誘われたが野球はしてないと答えた俺、狭霧蜜弥。
しかし小学生の草野球に混じってやっていたのを見られたらしく、今現在只今現在進行形で鋭い視線で睨まれています。


なんて性格を無理やり変えてみても仕方ない、か。
こいつ確か…一番最初(監督さん除く)に話しかけてきたやつだな……目がおっきい女っぽい男。名前は知らん。




『えーと…』
「泉。9組の泉孝介」
『いずみ…泉、ね。
それで?何か用かな、泉君』




んー、と固くなった体をほぐすように背伸びやら軽いマッサージやらをしながら聞くと、あからさまに眉間にしわを寄せた"泉君"。
……そんな顔してると皺が取れなくならないか?




「お前、確か野球してないって言ったよな?」
『ああ、言ったな。(多少含んだが)』
「お前今、野球してただろ」
『あの程度なら誰でもできるさ。小学生の野球だぞ?』




野球してないからと言って運動神経を甘く見てもらっては困る。
野球はやっていなくとも、これでも毎日トレーニングしているんだからな。




「ふーん…でもあんだけ出来れば高校の部活でも余裕だろ」
『……言っただろ?"家の都合で無理なんだ"って』




探るような目で見てくる泉君に目を細めて言って見せる。
どうやら納得したようで、もういいか?と尋ねれば、拗ねたような…いや違うな……疑ったような声でああ、と頷いた。

………まだ疑ってんのか、こいつ。疑い深いなー…。あのタレ捕手も相当疑い深そうだったな、確か。
一番捕手に向いてそーだ。



それから、もう泉君のことは気にせずに家に帰って待ちわびていた風呂に入り、就寝前用の本を読んでから眠った。































今日は最初ということで早く帰ることができた。
明日からは練習漬けなんだろうな…と思いながら本屋やバッティングセンター、今のところ思いつく限りの場所へ行った。

その帰りに野球場の近くを通ってみると、わーわーと賑やかにプレイしている小学生を見てみると、そこにあきらかに背の高い小学生に見えない男が俺から見ても上手いといえるほどのプレイをしていた。
その男は、今日の昼にグラウンドで見たことがあった。


狭霧蜜弥、だ。


男の割には色が白くて、染めていないような薄い金髪がきらきら輝いていた。
長身で細いそいつは綺麗な顔をしていて、本当は一瞬女だと思ったけど、花井達の勝負を真剣に見る表情は綺麗だけど男だった。




しばらく狭霧を見てると、あいつは小学生達に投げるコツとか打つコツを指導しているように見えた。
初めて見たときはまるで生きているけどただ動いてるだけみたいな、人形のような奴だった。

だけど、今は…………。

話しかけたらまるでさっきみたいな表情は嘘のようになくなった。
軽く体をほぐしながら話すあいつは、態度は柔らかかったが目は……拒絶してた。

もう一歩こっちが踏み出して腕を掴もうとしても、あいつは上手く交わして一歩下がる。
その繰り返しだ。

人当たりの良さそうな笑みを浮かべるあいつは……心に深い溝がある。
踏み込もうとすれば、踏み込んだ奴はたちまち落ちてく侵入者用の深い溝。
笑顔で人を牽制して、それをも乗り越えるようなら問答無用で落とす、二重罠。




「………ばっかみてー」




なんで俺、狭霧のこと気にしてんだろーな。
…ああ、多分。あいつが優しそうな、悲しそうな、悔しそうな、色んな感情が混ざった笑顔を浮かべるからだ。
あんな笑顔浮かべるくらいだったら素直になれっつーの。




「…俺には関係ないからいいか」




明日からは部活が始まる。
一年しかいないからどこまでいけるのか楽しみだ。





















『…あー……ねむ…』



しまった。つい面白くて読みふけった。
おかげで寝る時間がほとんど朝だ……。
この癖直さないとなー……無理か。←



「おはよー蜜弥君」
『……ん…?千代…おはよ』
「ねむそーだねー。また遅くまで本読んでたの?」
『そー。よくわかったな』
「あはは、蜜弥君昔と変わってないもん」



変わってないのか、俺。
会ってたのは中二の冬休みぐらいまでだっけ…?それから受験やらで千代とは会わなくなったんだよな。
俺は俺でシニア…の方が忙しかったし。




『そういや……マネになったのか…』
「うん、今朝練が終わったんだ!
最初は怖かったんだけどね。甘夏をこう…手で握って絞る人初めて見たから」
『……甘夏を…素手で?』
「うん、素手」
『………それはまた……(あの監督さんならやりかねない…)』
「でもやっぱり搾りたてだし美味しいよね、果物は!」
『…うん?まぁ…そうだな…(千代って…昔から天然だったからなぁ…)』



いや…きっと千代のことだから考えて考えて考えて訳が分からなくなったんだろうなあ。
目の下隈できてるし。



『まあ無理はするな。マネになるのも一晩中考えたんだろう?隈が出来てる』
「えっ、あ、あははは…」
『それより教室行かなくていいのか?このままだと遅刻するぞ』
「わっ、ありがとう蜜弥君!」
『じゃあな』
「うん!…あ、あの…蜜弥君…部活は入らないの?」



おずおずと言った風に尋ねてくる千代。
多分俺が野球部に入らなかったこと不思議に思ってるんだ。
俺が野球を好きなこと、彼女は知ってるから。



『………ああ、入らない。野球は、止めたんだ』
「え…」
『ほら、チャイム鳴るぞ』



無理やり話を終わらせて教室に入る。
……悪いことしたな…。だけどああでもしないと核心に触れそうだったから…。
千代は幼馴染だから、なるべく傷つけたくない。核心に触れたら、無意識にでも傷つけてしまうから。

おはよう、と挨拶してくるクラスメイトにおはよ、と軽く返して席に座る。どうやら俺はギリギリだったようで、すぐに担任が来た。
HRをして、授業。
前みたいな楽しみがないと退屈だけど…これでいい。



これで………。





疑いと闇





(大丈夫)(これは自分で決めたこと)(後悔はしないし)(覆すこともしない)(そう、昔に決めた)(自分とのルール)

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