夏色

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桜が芽吹く三月。中学校の卒業式も終了し、一年二年よりも早めの春休み。
四月からは新たな学校で新たな友人と、新たな生活を送るであろう。



『……多分、そんなことはないな』

(中学時代と対して変わらないだろうなー…特に俺)


ぽつりと(心の中でも)呟いた。
その呟きは幸いにも近くにいる人はいないので大丈夫だろう。もしいたら自分は変な人に見られるんだろうな…。
そしてピンポーン、と誰かが来た。誰か、と言っても大体予想はついている。



『……お疲れ様です』
「宅急便です。狭霧様で確かでしょうか?」
『はい』
「では中に運ばせていただきます」
『お願いします』



何もない…いや、最低限のものしかなかった部屋にどんどん段ボールが入っていく。全て俺の私物だ。



「これで最後です。
では判子をお願いします」
『………』
「ありがとうございました!またのご利用をお待ちしています!」
『どうも…』



決まり文句であろう言葉を言い爽やかに去っていったお兄さん。



(まだマシな方か…前はもっさいオッサンだったし…あれは堪えた…)



やはりどこの世界でも外見重視だろう。うん。外見が全てというわけではないが…中身を見てほしいのなら外見もちゃんとするべきだろうな…。

なんて悟りを開きながら段ボールを抱えて自室へと向かう。



『しかし……広すぎだろ』



高校生に3LDKもいらないと思うんだが…。
母さん…あなたはどこまで金銭感覚狂ってるんですか。



『………狭いよりマシか。ありがたく使わせてもらおう…』



一番広い部屋を自分の部屋にして、あとは………趣味部屋と、空き部屋にしておこう。何があるか分からないしな。

全ての段ボールを運び終わり、ビッとガムテープを全部剥がす。手にネバネバとひっつくそれは問答無用でゴミ箱行きだ。

一番初めに開けたものは本。マンガから小説までびっしりと詰められており、あと一箱ある。
次は高校で使う教科書やらで、机に並べていく。自分の服やズボンやら小物やらを片づけ最後の一箱。



『…………これは…』



バッド、グローブ、ボール、中学校時代のユニホーム。野球道具だった。

これは出さずにふたを閉め、クローゼットの足元に置いた。捨てることはできないから、せめて目につかないところに置いておこう。



『……腹減ったな…なんか作るか』



やっぱ蕎麦か?引っ越し蕎麦…。いや、蕎麦ねえな…うどんでいっか。

入学式は三日後…か。明日はとりあえずここら辺の探索して…学校までの道確かめて……一度家に帰ったほうがいいのか…。



大丈夫だ。しばらくは忙しい。
だから忘れられるさ、野球のことなんて。




























『………千代…?』



時は早々と過ぎて三日後。俺は埼玉にある西浦に入学した。県立だが私服校で自由が取り柄そうな学校だ。

初日は何を着て行けばいいのか分からず、とりあえずカッターシャツに中学のズボンでいいんじゃないという母のアドバイスにより、長袖の白シャツにズボンでの登校だ。

しかし、やはり駄目だったかと少し後悔…。周りからの視線がハンパねぇ。むしろ見られすぎて穴があきそうで痛い…。

さっさとクラス表を見て去ろうと思って人だかりの多い場所へと向かうと、茶色の髪を二つ括りにした女の子。
一生懸命友達らしき子二人と一緒に背伸びをしていた。



『………(千代の背じゃ、ムリだな)』
「んー…見えたー?千代ー」
「ダメー全然。美亜はー?」
「こっちも全然ー」



疲れたのか一旦背伸びを止めた三人。
……これは話しかけたほうがいいだろうな…。



『…千代』
「わぁっ!?え、あっ!?」
『……久しぶりだな』



周りが煩いから多分声は聞こえないだろうと思い肩に手を置いたんだが……まさかそこまで驚くとは。



『悪い、驚かした』
「あっううん!」



大丈夫だよ!と高速ワイパーのように手を横に振る千代。……早すぎて手が見えん。



『見て来るか?…クラス』
「え…いいの?」
『ああ、自分のついでだから…。そっちの二人の名前は?』
「え、あっ友井紋乃です!」
「小川美亜です!」
『友井さんと、小川さんと、千代…。ちょっと待っててくれ』



なんか横の二人の顔が赤かったが…風邪か…

えーと、俺は五組か…。
三人の名前は七組にあった。



『悪い、待たせた…。三人とも七組だと…』
「蜜弥君、ありがとー!助かったよー」
『いや、千代の背じゃ苦しいと思ってな…』



頭に手を乗せると、千代がもー!と頬を少し膨らませる。
年相応、というより少し幼い仕草に思わずほおが緩んだ。



『じゃあ、俺はもう行く…』
「あ、うん。蜜弥君は何組?」
『五組。じゃあまたな』
「うんっバイバイー」



相変わらず視線はチクチクと痛くて、早くこの場から去りたかった。
昔から理由も分からずに注目されるのは苦手だ…。






「千代!あの人誰!?」
「チョーカッコイイ!」
「蜜弥君?
狭霧蜜弥君って言って幼馴染、かな?家が近かったんだー」
「「いいなー!」」








幼馴染



(そういえば、蜜弥君何部に入るんだろー?やっぱり野球部かな?)
(体育館でも視線が痛いのは何でだ…っ)

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