メイド
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『おはようございます』
「………」
『何かついていますか?』
じっと自分の顔を見つめる綱吉に首をかしげて尋ねると、おかしそうに首を振って笑った。
「今日はいつも通りだな、と思って」
『はい?』
「まあ、理由は分かってるんだけど」
視線は名無しの後ろに。
にこにこと満面の笑みを浮かべている妃月へと向かっていて、苦笑を零した。
「よかったね、妃月。おかえり」
「はいっ!ありがとうございます、綱吉様!」
心からの笑顔を浮かべている妃月は一礼してそのまま執務室から出て行った。
「嬉しそうだね」
『浮かれているのです。仕事に支障はないようにしますのでご安心ください』
「……嬉しいなら素直に言えばいいのに」
『嬉しいだなんて……私のもとに戻ってくるのは当然ですから』
失礼します、と笑って名無しも執務室から去って行った。
閉じた扉を見て、何度か瞬きを繰り返した。
「当然、ね…(差し詰め、部下達は所有物ってとこかな)」
自分の物なのだから、自分のところに戻ってくるのは当たり前だと。言外に言っていた名無しにクスリと笑みを零した。
『こんにちは』
「おや」
イタリアの街を少し入ったところのカフェのオーナー、オリヴァは珍しいお客に目を見開いたあと、皺深い目元を緩めた。
「またリボーンさんのお遣いですかな」
『お見通しですか、さすがですね』
「……さすが、使用人総括のことはありますね」
ほけほけと笑っている表情の中に、刺すような鋭さが覗いた。
「オリヴァさーん、ってあれ…名無しさん、でしたよね?」
『はい、お久しぶりです美紀様』
「あ、の……前から聞きたかったんですけど、リボーンさんのお知り合いってことはツナ…綱吉の…」
『美紀様、私はあくまでも使用人です。主人のプライバシーに立ち入るようなことは命令がない限りできません』
言いかけた言葉を笑顔で制され、美紀は言葉を詰まらせた。有無を言わせない笑みを見せられれば何も言えない。
見計らったように、オリヴァが呑気な声で話しだした。
「前と同じものでいいんですかな?」
『はい、お願いします』
「美紀ちゃんも、もうすぐお客さんが来るから準備を」
「は、はい…」
名無しに一礼し店の奥に駆けていった美紀の背中を見送ると、オリヴァがコーヒー豆を渡した。
「あまり苛めないでやってくれませんか」
『苛めるなんて。私は仕事をしたまでです。主人に害をなす事は避けねばなりませんから。
それに、私が使用人であることは事実ですので』
「使用人。
それだけで収まりきらないのが貴女でしょう。何を目的に?」
『貴方にお話するほどのことでは』
ベルを鳴らして入ってきた、笑顔の攻防に終止符を打ったお客は一瞬寒気を感じてブルリと身震いをした。
接客をするオリヴァに一礼して名無しは軽い音を鳴らして店を出た。
「お帰りなさい名無しさん。どこ行ってたんですか?」
『リボーン様のお遣いで、以前行ったお店に』
「ああ、あの……」
中々雰囲気の良かった店を思い出し妃月は頷いたが、名無しの纏う空気が違ったことに気が付き首をかしげた。
「どうかしたんですか?なんだかピリピリして、」
『そういえば妃月、流薇が電話で浮かれていましたけど何かありましたか?』
「なん・でも・ない・ですっ!!」
憤慨した様子で去っていく妃月の背中を見て笑みを零した。
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