時少。
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『要、少し聞きたいんだけど、昔からの友人が気にがかる時はどんな時だ?』
「え?なぞなぞか何か?」
いきなり話が変わる朔那に戸惑いを隠せない。いいから答えろ、と最早命令口調の朔那に悩みながらも口を開く。
「そうだなあ…気にがかる……心配してる時とか…かな」
『心配…』
指を口元に持って行き考える素振りを見せる朔那に、理解してしまった。
3つも歳が離れているにもかかわらず、自分や翼たちよりも知識がある彼女が、こうして悩むほどの何か。
「朔那、それって男の子?」
『……』
「男の子なんだね」
何も答えていないのに何でわかる、と言いたげな朔那の視線に笑みを一つこぼした。
伊達に何年も友人をやっていない。
「君はとっくに分かってるんじゃないの?あとは正面から向き合うだけだと思うよ」
要の言葉にそっと瞳を伏せた。朔那の長い睫毛が頬に影を作ると、顔つきが憂いを帯びた。
『この気持ちはきっと邪魔をするものだから、どうにかして、消したい…』
「どうして?」
『やることがある。それを達成するには、この感情は不必要なものだ』
口にする言葉ははっきりとしている。よほどの覚悟があるのだろう。しかし要の目に映る朔那の表情は辛そうだった。
要は小さく溜息をついて朔那の頭をゆっくりと撫でる。
「不必要だと決めつけるのは、早くないかな?それに、その気持ちは朔那のものだ。朔那だけのものだ。君は苦しいと思うなら、無理に消す必要はないと思うよ」
『………』
「僕としては、そのほうがいいけど…」
『かなめ…?』
小さくつぶやかれた言葉は朔那の耳には入らなかったようで、要は何でもないと首を振った。
「……僕は、君が苦しむところは見たくない」
ゆっくりと髪を梳くようにして動かされる手はとても温かい。だけど棗の手は強さの中に優しさがある。とても不器用な優しさで、分かりにくいけれど。
この感情が大切だというのなら、消さなくてもいいと言ってくれるなら、私はこの気持ちを大事に持っていたい。
「それに、そういう感情が後押しになるっていうのは昔から何にでも題材にされてきたしね」
目を伏せるが先ほどとは違う、本当に嬉しそうな表情を浮かべ、少し照れるように俯く朔那を要は微笑ましく思う。幼いころより周りと違う彼女は、どこか周囲と壁を作る癖があった。そんな彼女が好意を持つ相手を作ることは、とても好ましいことである。
その相手が自分ではないことに少し寂しさを覚えてしまうが。
『ありがとう、要』
「ふふ、お役に立てたならよかったよ」
『今度はベアもつれてくる』
「楽しみにしてるよ」
来た時とは明らかに違う、さっぱりしたような表情をしている。元の朔那に戻ったようだ。
葉山に言われた通り、薬をもらって寮へと戻る。もうすっかり夕方である。
自室に戻った朔那は壁にかかったカレンダーを眺めながら朔那は思いを馳せる。
『(……何事も、なければ良いが……そんな訳には行かないだろうな…)』
先日、仲間達にまた会うだろうと言った時のことを思い出す。
あの時は意味のわからないような顔をしていたたが、実際に鉢合わせした時、私はどちらについたらいいのだろう。
彼が、どうなるか……あの子がどうなるか……全ての未来は視えている。
後は、私がどう行動するかで未来が変わる。
『………変えても、いいのかな…』
未来を変えることに躊躇いが無いわけじゃない。一分先の未来を変えるだけで、全ての未来が変わる。それは俗に言う新たな"パラレルワールド"が現れる。
もし、未来を変えた先に待っているのが闇なら……私はそれを払えるのだろうかが心配だ。払えないのなら、誰も、何も、守れはしないのだから。
『(……らしくない。なんでこんなことを考えるのか…)』
目の前のことに集中すればいい。そうすれば、おのずと道は開くはずだから。
『(会いたい……棗…)』
無性にあの赤い瞳が見たくなった。優しい声で名を呼んでほしい……私はいつからこんなにも欲張りになったのだろうか。
『棗…』
「……んだよ」
『えっ!?』
一人で呟いただけの事に返事が返ってきたことに驚いて振り向くと、そこにいたのは会いたいと思ってた張本人。確かに会いたいとは思ったけども。
棗は開けていた部屋のドアから身を滑り込ませ、中へと入ってきた。
『何でいるの…?』
「……久々に電気がついてたから」
そういえばここに帰ってきたときは電気をつけない時間だったと思い出した。久しぶりに見る棗の顔は、どこか安心するが、蜜柑とのことが頭をかすり、少し気まずい雰囲気が流れる。
「……お前、見てたのか」
『…のぞき見する気は、なかったんだけど…ごめん…』
「別に、謝る必要はねえ。気に食わねーのはずっと逃げてたことだ。…お前、どこにいた」
『どこ、って……えと、色々?』
誤魔化すと思い切り睨まれた。
まあ、バレるよね。話すつもりはないというのが伝わったのか、溜息をつかれてしまった。
こちらに背を向けたので帰るのかと思ったが、「何してんだよ」と何故か呆れられてしまった。
「行くぞ。ルカに心配かけんな」
『……うんっ』
要するに、流架に顔を見せるのに付き合ってくれる、というのだ。
案の定今まで隠れてたことを怒られてしまったけど、二人共それ以上の追求はなかった。
久しぶりに会えて、久しぶりに話せて、久しぶりに笑い合って。
やっぱり、この感情は大切に持っておこうと決めた。
あとどのくらい時間が残されているかは分からないけれど。
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(加筆修正:20160906)