メイド
□09
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小さな小鳥の囀(さえず)りで目が覚めた。昨日までの眠気や疲れがスッキリ飛んでいて、久しぶりに気持ち良く起きれた。
……だけど、なんか忘れてる気が……。
「ぁ……」
昨日、リボーンに連れられて行ったあのカフェで会った…懐かしい彼女のこと。
それと……頼れて、誰よりも信頼している…名無し。
「………どーする、か」
彼女に会ったことで動揺して、つい出てしまったあの態度。
うーん、まだ何か忘れてる気がするんだけど………ダメだ、思いだせない。
『ボス、失礼します』
「……え、あー……お、お早う名無し」
『お早うございます』
少し、否、かなり気まずかった。だけどいつもと変わらない笑顔を向けてくれた彼女。
穏やかで、暖かくて、こっちがほっとするような笑顔。
『大丈夫ですか?』
「え、」
『昨日、大分体調が優れなかったようなので……』
「ああ、うん。大丈夫。なんか起きたらスッキリしてて」
『そうですか。それはよかった』
ほっと息をつく名無しに、こっちがほっと安堵した。
よかった…気にしてないみたいだ……でも一応謝っといた方がいいかな…。
「あー…名無し、その…昨日はごめんね」
『……昨日、ですか?』
「うん……ほら、俺……」
『お気になさらないでください。大分体調が悪かったのでしょうから』
本当に気にしてないのか、いつも通りの笑顔を見せる名無しにほっと胸をなでおろす。
『アルピーアファミリー主催のパーティーことなのですが、隼人様と武様、リボーン様がご同行致します』
「え、あー…そんなこと言ったな…」
『……あの、もしかしてお忘れですか…?』
「いや、うん。覚えてるよ。うん。ちゃんと覚えてる」
『…ならよろしいんですが……』
疑いの目で見てくる名無しに曖昧に笑い返して着替える。
小さく溜息をついて出て行く名無しに申し訳なく思いながら、昨日のことが頭をかすった。
「………髪、伸びてたな……」
そりゃそうか……もう7年。
大人っぽくもなってた。可愛らしさが少し抜けて、綺麗になってた。
「………朝飯、食べにいこ」
軽く頭を振って暗い考えを頭から追い出す。
美味しい物でも食べてスッキリしようかな……今日はあのパーティーだし。
少し仕事をして、パーティー開始の一時間前。
いつもの黒いスーツを脱ぎ棄てて、真っ白いスーツに着替えた綱吉。
どこか落ち着かない風にそわそわとしている。
「ツナ、何かそわそわしてんけど大丈夫か?」
「武…いや、なんか白いスーツって落ち着かなくてさ」
「ははっ、まあツナは俺等のボスだから胸張ってけよな!」
パンッと背中を叩く武に笑みを零す綱吉。昔からの友人はやはり落ち着くようだ。
血が流れる職業のトップに座する綱吉が狂わないのは、周りを囲む彼らのおかげでもあるのだろう。
「あー…でもなーんで出るって言っちゃったんだろーなー…。武達もごめんね、俺が勝手に言ったことなのに…」
「ん?んなこと気にすんなって!」
「そうです十代目。気にすることではありません!」
はははと笑う武に、ぐっと拳を作って力説する隼人。
二人の言葉にそれなら良かったと安堵した。
「おめーらいい加減に中入れ。主催者が挨拶周りしてんぞ」
「リボーン…早速香水付けてんな…」
「ふん、久しぶりのパーティーだからな。楽しまねーと損だ」
女物の香水を匂わせ、フンと鼻を鳴らして笑ったリボーンにもう呆れるしかない綱吉は、二人を付き添えて主催者であるアルピーアファミリー・ドン"ミラフ・アルピーア"の下に向かった。
「これはこれはドン・ボンゴレ。ようこそいらっしゃいました」
「Buonasera(こんばんわ)、ドン・アルピーア。お招きいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。中々いらっしゃらないボンゴレが来ていただけて嬉しいです。
どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます」
人のよさそうな顔を浮かべて立ち去ったアルピーアに、ひとまずいいかと思う綱吉。
だが気を抜いた瞬間、襲われたのだ。
ドレスを着飾り、宝石や香水をふんだんに使用した見目麗しいが華美な女たちに。
「綱吉様、お会いしたかったですわ。中々パーティーにいらっしゃらないから心配しましたわ」
「綱吉様、最近婚約者をお探しだとか」
「でしたら是非わたくしを」
「いいえ、綱吉様には私が一番ですわ」
「……は、はあ…」
押され気味なボンゴレボスを遠巻きに見る腹心の部下2名。
「大変だなーツナの奴」
「十代目…嘆かわしい…さっさと離れねーか女ども…!」
呑気に見ている武と浮かぶ涙を耐える隼人。こうまで反応が違うといっそ清々しい。
「しかし…こんなところで候補が見つかるとはおもわねーな」
「まったくなのな。正式な婚約者になるには俺等の了承が必要らしいが……そんなの、ツナが本気になったら関係ないのな」
「……リボーンさんは何を考えているのか…」
いくら中学時代からの親友であり仲間であろうとも、今では上司部下の上下関係だ。
偶には友人に戻ることはあるが、綱吉がその気になればいつだって強制的に決定できる。
「無事に終わればいいがな…」
出かけに言われた、名無しの言葉が頭にちらつく。
少し気になることがありまして…主催者のご令嬢にはお気をつけください
眉間にしわを寄せ、目を伏せる名無しの顔が思い浮かぶ。
あそこまで心配そうな顔をする##NMAE1##は初めて見た。
「アルビーアのご令嬢…"ラファーノ・アルビーア"様か…」
「どんなやつだっけ?」
「今十代目の腕に手を絡ませてやがる女だ」
目だけで追うとそこには獄寺の言うとおり、綱吉の腕に手を絡ませて妖艶に色気を振り撒く美しい女。
体にフィットしたドレスが生み出すのは素晴らしきプロポーション。
豊満な胸も惜しみなく晒し、背中もぱっくりと開いている黒のドレスを優美に着こなしていた。
「へー…性格悪そうなのなー」
「まったくだ。それだけでも要注意なのにあの名無しがあそこまで言うんだ、気をぬくんじゃねえぞ」
「ははっ分かってるのな」
ピリピリとした殺気をなるべく抑え、二人はパーティーに紛れた。
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