時少。

□08
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『…完全にはぐれた』

朔那は蜜柑達と離れた後、話していた相手に踊りを誘われ踊っていると、他の何十人という生徒からも誘いを受けたので逃げていたのだ。
蜜柑達を探すように辺りを見回す朔那はため息をつき、お腹が空いたのか豪華な料理を皿に移す。

「おい」

『あれ、棗。よかった、はぐれてたから見つからないと思ってた』

「……踊るぞ」

『え?』

一言だけ言うと、棗は朔那の腕を掴み、中央へと引っ張りこんだ。
いきなりの行動に目を丸くする朔那は周りとぶつからないように動揺しつつも棗に合わせる。

『どうしたの?いつもら踊らないのに』

「気分」

『棗って本当に猫みたい』

そう言って、体質系の劇を思い出してクスッと笑った。
それが勘に障ったのか、掴んでいる朔那の腕を痛くない程度に引っ張り、ダンスにアドリブを加えた。

『わっ!』

「ふん、よそ見してんな」

『いや、今のは棗が……何でもない』

不遜な笑みをしている棗に言い返すのも馬鹿馬鹿しいので、とりあえず笑っておいた。
二人で笑いながら踊っていると交代のタイミングだ。
お互い次の相手に代わるのだが、朔那は中央の輪から外れた。

「おい」

『知らない人とは踊らないの』

呼び止める棗に手を振って輪から外れた朔那は少し疲れたような顔をしている櫻野に気づいた。

『秀一』

「…朔那」

『追いかけられてたの?疲労感がにじみ出てる』

「うん、今ようやく逃げてきたところ」

それは、それは。
総代表であり、櫻野のように眉目秀麗ならば、女子はこぞって狙うだろう。
特にアリス学園の女子は執念深く、逃げるのも一苦労だ。
ふと、昴がいないことに気付いた。

「昴はまだ追いかけられてるんじゃないかな…」

遠い目をしながら答える秀一に、朔那も会場内にいるであろう昴に心の中で手をあわせた。
すると周囲がこちらを見ながらこそこそと話しているのが目に付いた。

『…?』

「どうかした?」

『何か、見られてる……?』

秀一が朔那の視線の方へと向けると、話していた人達は慌てて目線を逸らす。
それに合点がいった秀一は、不思議そうな顔をする朔那に微笑んだ。

「朔那は目立つからね」

『お前が言うか……?』

朔那は恐らく何故目立っているのかを理解していない。
星階級を隠している間はめっきり会うことが少なくなったが、その時と変わらず鈍感である朔那に、櫻野は小さく笑みを溢した。
朔那は思い出したと言う風に櫻野に目を向けた。

『このドレスありがとう』

「気に入ってもらえたみたいでよかった。あの人たちも喜ぶよ」

『じゃあ昴や静音にも後でお礼を言わないと』

昴にはいつ言えるだろうか、と思案する。
すると、ラストダンスの時間のようで司会者のアナウンスが聞こえた。

『久しぶりに踊りますか?総代表』

「そうしたいけれど、今回はやめておくよ。変な噂が出回ってるみたいだしね」

『噂?』

「そのうち分かるよ」

女子に絡まれないうちに退散するよ、と去っていった櫻野と同様に、朔那も誘われないうちに会場をそっと出た。
夜風が髪を揺らし、頬を撫でる。
騒々しい会場とは一変した、静閑な空間に息を吐いた。
ガサ、と草木が揺れたと思えば、棗と犬、そして猫がいた。

『……何してるの?こんなところで』

「そのままそっくり返す」

『風にあたりにきたの。棗は……餌付け?』

棗の手にチキンが握られているのを見てそう問いかけると無言が返ってきた。
棗の横に座ると、犬の方は尻尾を振りながら近寄ってきた。

『私に近づくなんて、珍しい』

「何だそれ」

『昔から動物には嫌われるの。特に犬と猫とか小動物系』

ああ、でも最近はそんなことないかな、と気持ち良さそうに目を細める犬を撫でながら考える。

「お前、カレシと踊らなくていいのかよ」

『カレシ?誰のこと?』

「…………付き合ってねえのか」

『……あ、秀一の言ってた噂ってそのことなの?』

合点がいったと棗に問い返すと、付き合ってるのかどうかをもう一度聞かれた。
付き合ってないに決まってる、と答えると、今度は名前で呼んでることについて聞かれた。

『結構一緒にいるしね……私が名前で呼んでたら、そんなにおかしいかな』

「別に」

『それならいいじゃない。気にすることでもないわ』

あっさりと片付いた疑問に、棗はムッとしていた。
線引きされたのだ。これ以上入ってくるなと。
朔那が隠していることを無理に聞き出すつもりはないが、笑顔で簡単に言いくるめられるのは、少々気に障る。

『アリス祭も終わりか……』

ぽつりと呟かれた言葉がやけに寂しい色を含んでいたので、棗は空を見上げる朔那の横顔を見た。

「何かあるのか、この先」

『……やだな、私は予知能力のアリスはないよ?』

へらっ、とした笑顔を向けられたが、答える前に肩が若干跳ねたことに棗は気がついていた。

『棗、先に寮に戻ってよう。疲れちゃった』

「ああ……」

立ち上がった朔那から差し出された手を無視して立ち上がり、引っ込められようとしたその手を掴んで歩きだした。

『照れてるの?』

「うるせぇ」

ラストダンスの曲をBGMに、静かに笑いながら寮へと続く道をなぞっていった。




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(加筆・修正:2014/02/11)
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