パラレル

□追憶(上)
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日差しも朗らかになり、園内の樹々を揺らす風も心地よい正午の事。
いつか出会った年上の男を探し、木立ちを抜けてベンチに向かう少年が一人。
昨日貰ったおやつのビスケットを手に……以前会った時、彼は随分痩せていたし、あのナイフをくれたのだ。
アキラにしてみればお返しのつもりだった。
しかし――

「……やっぱりいないか」

残念そうに見やる先にはただベンチがあるだけで、彼の姿はなかった。
当たり前だ。
約束を取り付けた訳でもない。
彼がここに来る義理はないのだ。
それでも…アキラは若しくはいるのではと思った。
次会った時には一緒にいると約束したのだ。
その約束を胸にベンチに腰掛けて暫く待つ事にしたのだった。

………

父親が自分を連れ出す事は度々あった。
そのどれもが政治に絡み、重鎮と会合がある度に自分は引っ張り出され紹介される。
だが、時間が余ると余所で暇を潰した。
今回は秘密裏に行われている研究施設に来ている。
隣りには「モルモット」となる少年少女達が暮らす孤児院があるらしい。
シキは所在無く外を眺めた。
今いるフロアはリラグゼーションスペースなのだろう。
視界は開けており、景色が一望出来るように一部ガラス張りになっている。
最初はソファで大人しくしていたが、父親が随分話し込んでいる様子なので外にでも出ようかと思っていたのだ。
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