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□碇シンジである事(エヴァンゲリオン・シンカヲ)
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碇シンジは、不思議でした。誰かのようになりたいと思う自分は自分であるのかが。
「僕は、君のようになりたいと思ってここまで生きてきた。でも、それは僕じゃなくて君自身ではないのかな…?」
誰に言うとでもなく、シンジは目を閉じて言いました。
「君は君自身ではないと言いたいのかい?」
不意に、声がしました。その声は、渚カヲルのものでした。
シンジは、目を開けず
「…でも、僕はその人自身ではない。だったら…僕はなんだろう?」
と、返しました。
シンジは、目を開けなくても知っていたのです。カヲルがそこにいないと。何故なら、カヲルはすでに死んでいたからです。
「君がなんであるかの前に、その人はなんなんだい?」
「なにって…それは、その人自身だよ」
「…リリン(人間)達は、皆自分のなりたいと思う自分になろうとしている。君は、その人をもその人自身で無いと言っているんだよ」
シンジは、ハと息をのみこみました。そうなのだと、思ったからです。
それが、この世に存在する人であろうと、無かろうと、人は自分よりも優れると感じるものを目指しているもので、それを否定している自分は、全ての人達をその人自身ではないと言っていたのだと、シンジは思ったのです。
「でも、矛盾してるよ。そんなの」
「それが、当たり前なんだよ。矛盾していない事なんて無いのだからね」
「!!」
驚くと同時に、シンジは思ったのです。誰かになりたいと望む自分が、自分であるのだと。何故なら、自分になりたいと思う人などいないからです。
シンジは、ゆっくりと…本当にゆっくりと目をひらきました。すると、シンジの耳には、海のゆっくりと波打つ音が…そして目には、静かにじっと立ちつづける木々達が入り込んできました。
シンジは、悲しくも無いのに泣きました。ずっと泣きました。
堂々としていて静寂な雰囲気の中に小さな芽が芽吹く音が見える森の中であるのに、海の全てを許し、暖かく包み込んでくれるような音が聞こえるという事が、彼の心をうったのです。
「…僕は、僕なんだ…。僕自身であるんだ。誰でもない僕という存在なんだ。そして、君は誰でもない君という存在なんだ」
「そうだよ。僕は誰でもない僕自身であるように、シンジ君は誰でもないシンジ君自身だ」
カヲルがシンジの目の前に現れ、微笑んでそう言いました。
「カヲル君…」
「さぁ、僕は僕の居場所へ変えるよ」
「カヲル君の居場所…?」
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