テニスの王子様 BL小説

□5分前(塚不二)
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目の前の男がラケットを振りかぶった瞬間、自分に向かって、獲物を見つけ出した獣のようなボールが放たれた。不二は、その場を動く事も出来ずに、ただそれに呑み込まれていった。
「ゲーム手塚!」
審判を頼んだ者が大きく言った。
ゲームが何対何だったかよりも、不二の頭にはその言葉が強く焼き付いた。
「(初めて…負けた…。…たしか…名前は…てづか…)」
心にズシンとのしかかってくる初めての敗北感の中、不二はボンヤリと相手の名前を思い出す。
「良い試合をさせて貰った」
「……うん、こちらこそ…」
「名前を聞かせて貰えないか?」
「…二つにあらずで…不二…」
「不二君…か。俺はこう書いて手塚だ」
手塚と名乗った男は、不二の手を取って不二の手の平に指で名前を書きながら無表情で言った。
「確か手塚君は、大会とかには出てないよね…?」
「何故?」
「だって、雑誌とかで君の名前を見たことが無いからね」
「なる程…確かに俺は大会にはでた事が無い」
「ぇ…!?絶対、出るべきだよ!」
不二は、その事実に驚きながらそう言った。

「こんなに強いんだったら、優勝だってめじゃないよ?そっちの方が、いろんなタイプの選手と会えてもっと強くなれるんだから!」
「…そう…だな」
「?どうしたの?」
少しだけ目を見開きながら返事をした手塚に違和感を覚え、不二は少し首を傾げて手塚に聞く。
「いや…珍しいと思ってな。普通、敵になるであろう奴にそのような事は言わん」
「そう?まぁ、これは自分の為だからね」
「?」
「将来、僕が強くなっていくうえで、きっと君は僕に必要不可欠な存在になると思うんだ。だから、君にここで立ち止まっていてもらったら僕はとても困るんだよ」
「だが…俺よりも強い者など、世の中に沢山いるだろう?」
「そうだけれど、僕にとって大切なのは、初めて負けた相手っていうこと、二回目に負ける時、僕はきっと割り切ってしまうと思うんだ。だから…ね?」
「………」
サッパリと他人の為では無く、自分の為だと言ってのけた不二に手塚は、ゆっくりと息をのみ押し黙る。
「次、会うときにガッカリさせないでよ?『手塚』」
「…あぁ、『不二』」




「…ね、手塚?」
「なんだ…?不二?」
「僕との試合…楽しみ?」
「…あぁ…どんな試合よりもな」
静寂な雰囲気の中の沈黙に暖かみがさし、手塚が瞳を和らげながら答える。
「フフ…やっぱり僕の目に狂いは無かったよ」
不二がポツリと独り言を言う。
「……不二…?」
「何?」
「…いや…なんでもない…」
手塚が珍しく笑って…と、言っても愛おしむような…それでいて試合中に勝ちをとりに行くような顔をして笑って言った。
「気になるだろう?」
それに少しばかり、憤慨したように不二は手塚に言う。
「…そろそろ時間だな」
手塚は、それを聞こえていないようなフリをして、立ち上がる。それに不二は、まぁ良いけどさ、と呟いて手塚の隣りへと駆けていった。


〜End〜

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