求愛ガール


□第六章 少女は愛へ歩く
1ページ/10ページ

 
くしゅんっ。


真っ赤な鼻がグズグズとすっきりしない。


風邪をひいてる、って自覚は朝からあった。


制服の上からコートも着てるし、マフラーも手袋もしてるのにかなり寒い。


寒いくせに、ぼーっとしてしまうほど体は熱い。



「美優、あんたホントに昨日保健室行ったの?顔色悪いよ?」


「あー…行ったよ。ちゃんと」



由香里いわく、死人のような顔をしてるあたしを覗きこむ彼女に、ニコッと笑ってみせる。


うまく笑えた自信はなかったけど、この際あんまり気にしないことにした。



「…ホントに?ホントに行った?」


「行った」



まあ、行く目的は全っ然違ったけど。



――保健室で山崎先輩と肌を重ねたのは昨日のこと。


朝、学校の最寄駅で偶然あった由香里とあたしは、二人でゆらゆらとバスに揺られていた。


暖房の効いたバス内でも、寒気は消えない。



「もしかして昨日、雨のなか傘もささずに帰ったんでしょ」



…げ。


……バレた?



「あー!もしかして当たり!?もう考えらんないっ、風邪ひくの当たり前じゃんっ」



横でプンプンと頬を膨らませる彼女を横目に見ながら、あたしは突然襲ってきた目眩を堪える。



昨日。



帰り際がピークだったらしく、土砂降りの雨のなか、あたしは傘もささずに家に帰った。


一度乾かした制服も、家でもう一回乾かすハメになったのは言うまでもない。



理由は単に、傘を持ってきてなかったから。


送ると言ってくれた先輩の申し出をやんわりと断ったあたしは、雨のなか、もう一回だけ泣いた。



涙が枯れるほど、泣いた。


もう、泣かないために。



 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ