求愛ガール
□第六章 少女は愛へ歩く
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くしゅんっ。
真っ赤な鼻がグズグズとすっきりしない。
風邪をひいてる、って自覚は朝からあった。
制服の上からコートも着てるし、マフラーも手袋もしてるのにかなり寒い。
寒いくせに、ぼーっとしてしまうほど体は熱い。
「美優、あんたホントに昨日保健室行ったの?顔色悪いよ?」
「あー…行ったよ。ちゃんと」
由香里いわく、死人のような顔をしてるあたしを覗きこむ彼女に、ニコッと笑ってみせる。
うまく笑えた自信はなかったけど、この際あんまり気にしないことにした。
「…ホントに?ホントに行った?」
「行った」
まあ、行く目的は全っ然違ったけど。
――保健室で山崎先輩と肌を重ねたのは昨日のこと。
朝、学校の最寄駅で偶然あった由香里とあたしは、二人でゆらゆらとバスに揺られていた。
暖房の効いたバス内でも、寒気は消えない。
「もしかして昨日、雨のなか傘もささずに帰ったんでしょ」
…げ。
……バレた?
「あー!もしかして当たり!?もう考えらんないっ、風邪ひくの当たり前じゃんっ」
横でプンプンと頬を膨らませる彼女を横目に見ながら、あたしは突然襲ってきた目眩を堪える。
昨日。
帰り際がピークだったらしく、土砂降りの雨のなか、あたしは傘もささずに家に帰った。
一度乾かした制服も、家でもう一回乾かすハメになったのは言うまでもない。
理由は単に、傘を持ってきてなかったから。
送ると言ってくれた先輩の申し出をやんわりと断ったあたしは、雨のなか、もう一回だけ泣いた。
涙が枯れるほど、泣いた。
もう、泣かないために。