求愛ガール


□第四章 少女は愛を繋ぐ
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慣れない世界にぱちぱちと瞬きを繰り返す。


ここはどこ?


あたし、なんでここにいるの?


何があったんだっけ?



必死に手繰り寄せる記憶の糸。



『むしろ強いのかと思ってました』



突然頭のなかに浮かんだセリフに、あたしは記憶を思い出した。



…ここ、由香里の家だ。


それから、あたしの目の前にいるのは――



自分の膝に置いた、あたしの顔を覗きこんでるのは…俊くん。


ってことは、この涙を見られたのも…彼。



「おはよう俊くん」


「え、あ、おはよう…ございます」



困惑したような…それなのに、どことなくホッとしたような。


読み取るには少々困る顔をしている彼に、あたしはにっこりと笑った。



「…どうかした?あたしの顔、変なものでもついてる?」



そして口をつくのはお決まりの文句。 



“なんでもないです”



そんなあたしに、俊くんもお決まりの言葉を返すはずだった。


――あたしの、砂のような計画のなかでは。




「……悲しい夢でも見たんですか?」




けれど現実は、そうそううまくはできてない。


すっかりもう会話は終わるものだと思っていたあたしは、ゆっくりと起こした上体をピキリと硬直させた。



…悲しい、夢?


あれは悲しい夢なの?


あの後ろ姿を必死に追いかけてたあたしは、ずっと悲しかったの?


悲しいなんて、そんな簡単な言葉で表せるものだったの?



「……違う」



無意識のうちに言葉が口から滑り落ちた。



違う。


違う。


違う。


そんな簡単なものじゃない。


そんな楽なものじゃない。



動きを止めた体に、温かい彼の手が触れた。


手は髪をそっと撫でる。



「泣きたい時は泣いてもいいんですよ」



笑った顔は、どこか悲しそうに見えた。



“泣きたい時は―――…”



その言葉が胸にしみる。


その優しさが胸に穴を開ける。


どうして、そんなことを言うの。


どうして、そんなに辛そうな顔するの。



「…優しさなんていらない」



生暖かい優しさなんて、中途半端な優しさなんて、あたしには必要ない。



「ただ、愛がほしい」



そう。


欲しいのは、裏切りのない“愛”だけ。


嘘をつかない“温もり”だけ。



「だから俊くんの愛をちょうだい…?」



頭にある手をそっと離して、そのまま体を彼のほうによじる。


その言葉の意味を正しく理解した彼は、真っ赤に顔を染めた。



 
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