求愛ガール


□第三章 少女は愛を知る
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この頃、ぐんと気温が下がったような気がする。


はあっと息を吐いてみるとそこには白いオブジェ。


まるで、冷気に体を侵食されてるみたい。



…そう思ってしまうのは、熱くほてっている体に痛いほどの冷気を感じるから。



誰もいない、屋上へと続く階段。


やけに大きく響く甘い声。


激しい動きに声が漏れる。



今は授業中なんだから誰もその声を聞いていないにしても。


自分の耳に入ってくる自分の声に、あたしは恥じらいと今だけの“愛”を感じた。



あの頃から欲してやまない、誰よりも、何よりも渇望している“愛情”。


あたしに“愛”をくれるなら、あたしだけにそれをくれるなら、相手なんて誰でもいい。



「お疲れ」



そう、だからこの人もそのうちの一人。


あたしに愛を囁くためだけに、愛を感じさせるためだけに、今ここにいる。



行為を終え、隣で制服を着なおすその人にあたしは静かに目をつむった。


冷たい廊下に寝そべったまま、はだけた制服を直そうともせずに、ただその人の名前を思い出そうとする。



「またね美優ちゃん。今日も楽しかった」



そう笑うその人に、あたしは必死に記憶をたぐりよせた。



なんだっけ、この人の名前。


なんだっけ、この人の名字。


いくつだっけ、この人の年齢。


先輩だっけ。


後輩だっけ。


それとも同学年だっけ。


誰だっけ。


…………あ。


思い出した、この人の名前…山崎たける。



「…はい、山崎先輩」



そう言って上半身だけ起こすと、彼は階段をおりて教室に戻っていった。



いや、教室かどうかは分からない。


もしかしたら“彼女”のところかもしれない。


でももう、あの人がどこに行こうがあたしには関係のないこと。



……うん…あの人、イマイチ。



頭のなかのノートにそう書き綴る。


しばらく何もする気になれなくて、そのままぼーっとしていたあたしの耳に。



「先輩、それくらいにしとかないと体もちませんよ?」



ふいに声が響いた。



 
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