memory
□コイ、故に
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「さて、ユーリ。一緒にお昼寝でもしましょうか?」
世間様からはとっても仲が良く、互いを深ーく理解し合ってるように見えるおれとコンラッドだが。
ぶっちゃけおれはコンラッドが何を考えて、何を企んでるのか時々分からなくなる。
と言うよりは、分かりたくない時があるんだ。
今なんかがそう。
朝、日課のロードワークを終え、汗をお風呂で洗い流しさっぱりしてご飯も食べたし、さぁ、やるか、って自室の扉を開けようとした正に今。
「何言ってんの? おれ、これからギュンターと勉強する予定なんだけど…」
「ああ、その予定なら後日に変更させました」
「………」
満面の笑み。
そりゃあもう恐ろしい程に。
つーか、させました、って…。ギュンターに何をしたんだ、この男は。
一体、何が彼にこんな笑顔をさせているのか。
そしてその原因におれが深ーく関係しているのは、間違いないんだろう。
「……で? なんでお昼寝なの? まだ朝の内に入る時間帯だと思うんだけど…?」
「これから激しく運動しますから、お昼は過ぎますよ。……確実に、ね」
「ッ!?」
すぅっと銀の光彩が細められた刹那、その瞳に激情の色が揺れて隠れた。
すごく寒気を感じたのは気のせいか?
まず分かったのは、コンラッドがもう手がつけられない位怒っちゃってるって事。
「…おれ……なんか怒らせるような事……した?」
最近はお利口さんだったはず。
真面目に執務も勉強もやったし。
コンラッドの迷惑になるような執務の抜け出しや、深夜徘徊もしてない。
でも、この目の前の青年は怒っていて。
「身に覚えはありませんか?」
「…うん……」
今日程、頷くのが怖いと思った日は無いだろう。
きれいな笑顔に隠されてるのは、紛れもなく嫉妬だ。
「へぇ……、そうですか。先日、貴方宛にアーダルベルトから花束が届けられたのを、恋人である俺が気にしていないとでも?」
「………ぁ…」
そういえば、そんな物が届いたんだっけ。
アーダルベルトと和解(?)をしてから数ヶ月後、意外な事に彼から花束が届いたのだ。
人間の土地で育った花が。
「や……。でも花は悪くないだろ?」
「相手が悪過ぎなんですよ。よりによって、あのアーダルベルト…」
はぁ…、と全ての息を吐き出すような盛大なため息。
別におれが悪いワケでもないのに。
「ユーリは知らないから…。奴がどんなにしつこいのか」
「しつこいって……。別におめでとうの意味で送ってくれたのかもよ?」
「そうとは限りませんよ。……まったくどこまで楽観的に考えてるんですか?」
もう少し警戒心を持つようにした方が、とコンラッド。
お言葉だが、おれにだって一応警戒心はある。
あるけど、あからさまに人を警戒なんてしたくない。
だって大事な事が見えなくなってしまいそうだから。
「いーじゃんか、別に。おれは花束貰えたのは嬉しかったし」
「……俺は嬉しくなかったんですけどね。しかも、あの日はユーリの眞魔国でも生誕の日でしたよね…?」
「…ぁ……、そーいうば……」
キラリとコンラッドの瞳が光ったのは、おれの目の錯覚か。
「そしてユーリがそれを俺に祝わせてくれなかった日、ですよね…?」
なぜだろう。
室内には朝日が差し込んで暖かいはずなのに。
さっきからどんどん寒気が増してくるのはなぜだろう。