memory

□誰よりも貴方が好きです。
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俺には恋人がいる。
愛してやまない。
どのくらい俺が貴方を愛しているか、知ってもらいたいくらいだ。

「……だからって、どーしてオレなんすか。坊ちゃんに直接語ってくりゃーいーでしょ」

「語れるものなら、とっくに語っている。ユーリは今、地球に戻ってるんだ。じゃなきゃ、お前相手に語ったりしない」

「ひどっ!」

大して傷ついてもいないくせにヨザックは傷ついたようなフリをして、俺に非難の目を向ける。
その行動に軽く鼻で笑うと、侍女が入れて置いていった紅茶を一口、口に含んだ。

そう、ユーリは昨夜、地球に戻ってしまった。しかも二人で一緒にいようとした矢先に。

「そんでぇ? 隊長は結局、何を語りたいんですかぁ?」

「聞いていなかったのか?」

先刻言っただろう?、と続けると、目の前の大男は隠そうともしないで思いっきり眉を寄せる。

「だったら、何もオレじゃなくてもいーだろ!? こっちはせっかくの休か…」

「休みなら別に問題は無いだろ」

ため息を吐きたいのは、俺の方だ。
せっかくユーリと甘い一時を過ごせると思ったのに。

「……語るんなら、フォンクライスト卿とどうぞ。オレぁ、ほら坊ちゃんへの愛は語れないし」

「語るのは俺だけで十分だ。というより俺以外の奴が語ったりしたら、許さない」

はっきりとそう言い切ると、うわ…、とヨザックが顔を青ざめた。
ユーリと俺は恋人同士だ。互いに互いを深く愛し合ってる。
俺がユーリへの愛を語るのは、俺がユーリの恋人だからで。他人がユーリへの愛を語るようなら、悪いが容赦はしない。
語りたいなら、それこそ覚悟を決めてもらわないと。

「フォンクライスト卿は? めちゃくちゃ、坊ちゃんへの愛を語ってんじゃん」

「あの人は別だ。あれは語ってるんじゃなくて、叫んでるんだ。どうしようもない」

一応、王佐だし。
グウェンの負担を考えると、手出しできない。
もう放っとくしかないんだ。

「叫んでんの…? あれでぇ…?」

「そうだ」

「…………。そんで、隊長は坊ちゃんをどえくらい愛しちゃってるんだよ?」

何かを諦めたようにヨザが頬杖をつき、話を促してきた。
早く話を終わらせたいんだろう。
幼なじみの目は虚ろだ。

「どのくらいか、見て分からないのか?」

「はぁ…!?」

俺がどのくらいユーリを愛しているのか、実際に口で言い表わすのは簡単ではない。愛している、の一言では納まり切らないからだ。

「見て…って………。あぁ、そーですね! 坊ちゃんへの愛はとぉっても深いよな!!」

「ああ、深いさ。ようやく分かったのか。それなら今すぐ、ユーリの気を引くのを止めろ」

「……………」

紅茶のカップを口へと運びながら目線を向けると、ピタリとガタイのいい男はそのデカイ体を硬直させた。
俺の目は節穴じゃない。しかも、俺とヨザは幼なじみだ。

「お前のやっている事など、お見通しだ」

「………なんの事か、グリ江分かんなぁい」

「何十年、お前と幼なじみやってると思ってるんだ。お前が近状報告やら何やらでここに帰ってくる度に、ユーリに迫ってるらしいな」

「………」

その他もろもろ。ヨザがユーリを無理矢理女装させて、一緒に遊んだとか。
報告してくるのは目撃した侍女や兵など。
俺がどれだけユーリを大切に想っているか、語っておいたおかげか。

「諦めるんだな。ユーリの心も体も、永遠に俺のものだ」

「…そー言って、あんまししつこいと坊ちゃんに嫌われるんだからな。その内、オレがいただいちゃっても文句言うなよなぁ」

こりた訳でもなく、賢い獣のような男はニカッと面白そうに口端を釣り上げた。

「隊長こそ嫌われないよーに精々、頑張ってくださいねー。あんまし手が早いのも考えものだもんなぁ」

パキッ、と手の内にあるカップのとってが音を起てる。

「いいんだよ。俺とユーリの間には愛があるからね」

「どーだか」

ピリピリとした心地いい殺気が、部屋を満たしていく。
お互い笑っているものの、その体から放たれるのは紛れもない殺気。
誰よりも貴方が好きだから、その全てを俺のものにしたい。
だから誰が恋敵になろうと、俺には譲る気など更々ない。
だって俺は貴方の事を誰よりも、何よりも一番愛しているから。



fin

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