memory

□届けばいいのに
1ページ/3ページ



そんなことあるワケないって、あの時は笑って否定した。
だって、そんなの信じたくなかったし。
笑って、んなワケないじゃんってはねのけたけど、なんかどっかがぐらぐらしてて。
おれはあえてそこは目をつぶって気付かないふりしてた。
あんな店に行かなければとも、思った。
まあ、行っても行かなくても、この運命からは逃れられなかったかもしれないけど。
逃れられるなら、どんな手段でもいいから逃れてしまいたかったよ。


なぁ、コンラッド。


「あんた、今…どうしてる――…?」

見上げた夜空は、どこまでもきれいに星を瞬かせていた。










「あ、コンラッド! これおいしそう!!」

眼前に広がる、活気に満ち溢れてるお店の数々。
あれもこれもと目に映る全部がおいしそうで、楽しそうで。
走ると危ないですよと、苦笑してる恋人の手を引っ張り回して、久しぶりの外界を堪能しまくる。
近頃は抜け出そうとすればすかさずギュンター、ヴォルフのペアに見付かりやすくなっちゃって。
こうやって一庶民として歩き回れるのがなんとうれしいことか。
いつもなら手を繋いでるように見えなくもないそれはしないおれなんだけど、今日は無礼講だとばかりに大きな手を掴んで歩き回っていた。

「――ん? なぁコンラッド、ここって…」

「おや? 珍しい。占いの館、みたいですよ坊ちゃん」

ふ、とそれが目に入ったのはどうしてだろう。
ひっそりと、賑やかな店の間、ちょっと奥まった路地みたいな入口に掲げられたそれ。
色とりどりの品物に気を取られてるのか、両隣にいる人たちはそれに気付く様子はなくて。
おれだけが見付けたんだと、ちょっとした優越感に浸りながら、行ってみようぜと繋いでいた手を引っ張った。

「ようこそ」

ひとつ奥に凹んでいるだけなのに静まる空気にちょっと怖じけづきながらも、言い出した手前、入口を覆う濃紺のカーテンを潜って。
まだ明るい外と違いそこはあまりにも光がなくて、真っ黒になった視界に立ちすくんでいると聞こえた女性とも男性とも思える声音。
しばしばと瞬く内に暗さに慣れた目に映ったのは、蝋燭の明かりに照らされぼんやり浮き上がったショールのようなものを頭から被った人の姿で。
点々と置かれた小さな灯ではその人の全てを見極めることは困難で、あどうもと、とりあえず頭を軽く下げた。
そんなおれに返すかのようにその人も頭を下げるような動きを見せて。
この薄暗さ、きっと背後の恋人は護衛の顔を隠して周囲の状況に目を光らせてるんだろうなと思い浮かべた。

「あの、おれたち」

「どうぞ」

「うらな………ぁ、はい…?」

「どうぞ」

とりあえず当初の目的を、と思ってショールを被った男性なのか女性なのか、ぶっちゃけわかんないその人へ口を開けばもれなく遮られた。
しかも人の感情というものがまったく見えない声色で。
あまりにもきっぱりと先へどうぞとばかりに促されてしまったおれは、その場できょとんと瞬くばかりで立ち尽くした。
けれど彼、いや彼女か、ともかくその人は二度同じ言葉で促す。
残された道は先に進むだけのようだ。

「い、行こっか…コじゃなくてカクさん」

「はい…」

ミツエモンたちは、恐る恐る一歩を踏み出した。
それが恐怖の第一歩だと知らずに。
なんて、何かのナレーションみたく心の中で気を紛らわせつつ足を進める。
実際そうだったらなんて恐ろしすぎるし、エスパーに目覚めるなんてありえないしと自分ツッコミをしてみた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ