memory
□甘味
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今、何が欲しいかと聞かれたら、俺は迷わずこう答えるだろう。
ユーリからのキスが欲しい。
と。
別に頭がおかしい訳でもなんでもない。
ただユーリに飢えてる。
それだけだ。
原因はユーリが向こうに帰ってしまっているからだ。
「もう一年か…」
いつもなら三ヵ月とか半年くらいなものなのに、今回だけ長くて。
グウェンダルの執務室に書類を運びながら溜め息が漏れた。
「――グウェンダル、追加だ」
目的の部屋の扉を空いている手でノックし、返事も待たずに入る。
俺が抱えてきた紙の山に、眉間に刻まれた皺がさらに深くなった。
「またか…」
「ああ、まただ」
どさりと机の上に積み上げると、山が二つから三つに増えた。
「まったく、ギュンターめ。何もこの忙しい時に視察など」
「まぁまぁ、そう言わずに…」
そうギュンターは今、国境沿いの視察に三日程前から出ている。
俺が手伝っているもののギュンターの仕事を片付けれる訳がなく、結果残されたグウェンダルにばかり仕事が集中してしまった。
ちなみにヴォルフラムも、昨日から任務でビーレフェルト領に帰郷中だ。
呻くように歯ぎしりをする兄に苦笑を浮かべつつ、俺も出来る限り手伝うからと宥める。
そんな時に、扉は叩かれた。
「入れ」
「は! 失礼致します! たった今眞王廟より、これより半刻後に魔王陛下が、陛下専用浴室にお着きになられるとの報告が入りました!」
「そうか。分かった、下がれ」
「は!」
兵士が敬礼をして出て行くと、やっと来たかとグウェンが椅子に深く身を沈めた。
それよりも俺は、さっきから胸がドキドキしてきている。
やっとユーリに会えるのだ。
長かった、本当に。
高鳴る胸を服の上から押さえた。
「……コンラート」
愛しい恋人がこの腕に帰ってくる事に浮かれた耳に、静かな低音が響く。
はっとして顔を向けると、呆れたような、どこか諦めてるような、それらが交ざった笑みをした兄がいた。
「迎えはお前だけに任せる。一応、ギュンターとヴォルフラムには白鳩便で報せておくが、城に帰ってくるのは明後日になるだろう。…だから」
わざとらしい溜め息。
「だから?」
「だから、その浮かれた顔を一日でなんとかしてこい。まったく見てられん」
吐き捨てられるように言われた言葉に、反射的に手を頬にあてる。
その俺にフッとグウェンは笑うと、再び書類処理に没頭しはじめて。
「いいのか…?」
こんなにたくさん執務が溜まっているのに。
思いがけない許可だ。
忙しいのにユーリとに時間をくれるらしい。
呆然として呟くと、顔を上げずに彼は口を開いた。