02/20の日記

22:51
最強の味方
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残念です、と彼女言った。


『御菊さんからは、お弁当にあたった所為か、具合が悪いという返事がありました。只今絶対安静が必要です』

電話の向こう。アニシナ課長は無情に言い放った。

一気に公園内の空気が氷点下まで冷える。アラスカも真っ青な冷え込みだ。
課長に無理を承知で、御菊さんと連絡を取って貰った結果がコレだった。

具合が悪いのは、確かに気の毒だと思うよ。
食中毒なんて上げたり下げたり、それはそれは苦しい筈だもん。

だけど、同じ弁当を食べた俺は、現在ピンピンしているんデスが・・・。

俺だけじゃない。
駄粕さんも、比由場さんだってむしろ絶好調、舌好調だったし。
第一食中毒ったって、そんなに早く症状が出ないのでは?

込み上げる溜息を呑込み、昼下がりの空を見上げれば、青い空に白い鳩。
色彩のコントラストがヤケに鮮やかだ。

ここは鳩の巣窟らしく、隣のヴォルフは、自分だけに懐いてくる鳩を必死に追い払っている。


次の試合までの合間を縫い、俺は公園でヴォルフラムに会っていた。


「なんとかなりませんかね。今日の今日でドタキャンされるのは本当に困るんですよ」
『・・渋谷さん。貴方、死ぬほどの腹痛でのたうち回っているだろう彼女を・・・まさか!仮病だと疑っているのですか!』

ヤブヘビだったか!?

これだから、男は薄情だ、DVに走るんだ、と呟いた課長。
技と聞こえるように、はっきりと。

「・・ユーリ・・?」

電話の中身を察知したらしいヴォルフラムが、俺の顔を覗きこんでくる。
大丈夫だよというように、ヴォルフラムの頭に軽く手を乗せる俺。

ガサリ。
その時二人の間に置いてある、紙袋が大袈裟な程の音を立てた。

ヴォルフラムの作ってくれた、サンドイッチが―。

俺は、意味不明の罪悪感から逃げるように、電話に意識を戻した。

「だけどこのままじゃ、シンマは試合放棄です。眞王頭取はそんなの絶対に許してくれませんよ」
『許さないでしょうね。あの方は敵前逃亡、弱虫毛虫を何より嫌う方です』
「じゃあ・・!」
『おだまりなさい!!』
「ひ・・っ!」

鼓膜が破れた。
もとい、怒りの波動が俺の鼓膜を打ちぬいて、脳天まで響いた。

自分の激昂ボイスに、兄品さんはさらにエキサイティングしてしまっている。

やっかいにも保土ヶ谷バイパスだぞ。

『元々が間違っているのです』
「懇親パーティでビューティーコロシアムをすることだったら、シマロンが間違い・・」
『もっと根が深い事です。昔々女性を見せものにする、ミスコンなんて悪い冗談を考え出す男が悪かったのです。天罰が下って当然です』

ミスコン全否定。

とうとう本音が出たアニシナ課長だ。
これ以上どう懇願しても無駄だと察知した俺は、どうやってコンラート課長に説明しようかなあ、なんて考えていた。

すると、アニシナさんは少し落ち着きを取り戻した様子でアドバイスをくれたのだ。

アドバイス、なんだよな。きっと・・。

『いるじゃないですか。いつも貴方の傍には、最強の味方が。うっかりナンバーワンになってしまいそうな、オンリーワンの花が』
「俺の味方・・ですか?」

俺の傍に居たヴォルフラムは、鳩と格闘するために、ベンチの前でタコ踊りしているんだけど・・?
まさか。コイツ?だってヴォルフだぞ?

「へ・・ヴォルフラム、ですかぁ?」

気の抜けた声が出てしまった。

『他に誰がいます?女性は許せませんが、男性なら見世物になっても結構。生きたニワトリでも齧っていれば上等」

見世物小屋、蛇女ショーじゃないって。
俺はアワアワ泡を食って異議を唱えた。

「いくらヴォルフでも無理ですよ、今更衣装も間に合わないでしょうし」

皆、考え抜いた衣装を用意していると聞く。
自分のチャームポイントをより引き立たせる小道具だから、何より重要なアイテムなのだ。

だが、電話口のアニシナさんの声は自信に溢れていた。

『ご安心なさい。・・色々なサイズが展開されている衣装に心あたりがあります。取り敢えず、休日の義油田部長を叩き起しましょう』
「でも、義油田部長まで巻きこんだら、なんか申し訳ないんですけど」

ちなみに義油田部長は総務部長だ。
この人もすごく綺麗なんだけど、なんというか年寄り臭い。
きっと今頃の時間は、ほっこりコタツで趣味の絵手紙でも描いていると思うんだけど。

俺の心配をよそに、アニシナ課長は続ける。
大丈夫、と胸を叩いている姿が目に浮かぶようだ。

『とにかく愛すべきか弱い女性の敵前逃亡という失点は、この兄品が挽回してみせます』
「ちょ、ちょっと兄品課長・・?意味が―・・・切れた」

てか、御菊さんの敵前逃亡をしっかり認めているし。

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