09/02の日記
23:02
日曜の夜の過ごし方(ヴォルフ)
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「なあヴォルフラム。今夜は兄上と一緒に宮崎牛でも食べにいかないか?近所に美味しい店が出来たってテレビで言ってたんだ」
日曜日の四時にぼくが目黒にいるのが珍しいのか。
コンラートがやたらベタベタとしてきて鬱陶しい。
毎週この時間は、まだユーリの家にいて、夕食の件で揉めている時間だ。
家で作るか。しっかり食べたいか。軽くでいいか、などなど。
そして、夕食を済ませた後は、アイツが車を出してくれて、10時には家に届けてくれる。
埼玉から目黒までの、見慣れた景色を追いかける道程。
だから、いつだって夜のドライブは楽しくもあり、同時にさびしくもあったのだ。
「・・・夕食はなんでもいい」
夕食、という単語を口にすることが、辛い。
ぼくの投げ遣りな口調にコンラートはわざとらしく眉をひそめてみせる。
「おいおい、ヴォルフラム。お前が何をイラついているのか知らないけれど夕食はしっかり楽しくとろうじゃないか」
「う、うるさい。ぼくは別にイラついてなどいない」
「いや、イラついているな。お前が日曜日のこの時間に家にいるなんて、奇跡が起きたとしか思えないし。あらかたあちらが原因なんだろうけどね」
「煩い!埼玉方面が原因じゃないぞ!!」
ぼくは墓穴を掘ったとも気付かず、ソファから飛び上がる。
自分の部屋で一人になろうと思ったのだ。
別荘での事件や、ユーリと南川さんの関係で変わった点。
そしてユーリに言った事。
全て頭の中で整理したかったのだ。
とくにユーリとの会話は大切だった。
すかさずぼくは、先程の電話でのやりとりを反芻してみる。
大丈夫、間違った事は言っていない。
だってユーリが悪い。
だれにでも、特に自分に好意を持ってくれている、可愛い後輩に愛想良すぎるユーリが悪いのだ。
(―でも本当は判ってる。一番悪いのは意地っ張りな自分なんだって)
今はいいんだ。
今はまだ、お互いの気持ちは熱い。
(今はいいが・・。こんなのが積み重なって、段々ユーリが自分から離れていったら・・?)
きっとユーリ以上に好きになれる人なんて、二度と現れないというのに。
ぼくは自室のベッドにごろりと仰向けになり、携帯を取り出した。
上質なシーツの感触よりも、埼玉の固くて小さなベッドが恋しかった。
そしてメールにしようか、電話にしようか一瞬考えたが、結局電話の方を選ぶ。
もう自宅に居る頃だから、交通法規の心配をする必要がないし・・などと自分に言い訳をしながら。
ユーリはすぐに電話に出てくれた。
「ヴォルフか?どうしたんだよ」
「ユーリ・・」
「ん?」
「その・・今からそっちに行っていいか?電車でいくつもりだ。埼玉の駅前で夕食を食べたいと思ったんだ」
駅前で夕食だけ一緒にとって、そのままUターンして、目黒に戻ればいい。
それぐらいならユーリの負担にならない筈だった。
だけど、ユーリはぼくの申し出を即座に却下した。
「駄目だよ。今電車で埼玉に来て貰っても、俺がいないもん」
「な、なんだと?夕食だけで良かったんだが・・」
「もちろん晩ご飯は一緒に食べよう。えっと。俺もちょうど目黒に向かってたから。そのまま拾うよ」
「ほ、本当か!?」
「嘘言っても仕方ないって。てか、もう目黒通り近くにいるし」
そこでいつもとは逆方向に向かうドライブが、確定したのだ。
目黒から出発して―。
さて、どこに行こうか。
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