別冊(Req)

□さよならを伝える方法
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「え・・と。喜んでくれたら嬉しい・・けど」

何が言いたいのか自分でも判らなくなってしまった。
何故ヴォルフと花をだぶらせてしまったかも判らない。もう何がなんだか、自分でも判らない事だらけだ。

そんな二人の様子に、とうとう橋本が焦れた声を上げた。

「渋谷君!花あげちゃったんだ。なーんだせっかくお揃いだったのに」
「べっつにいいじゃん。それより、それ食わないのかよ」
「やだ〜取らないでよ、ちゃんと食べるもーん」

そしてあっという間に、心振るわせる恐るべきシーンは春の風に流されてしまう。

「ねえねえ!渋谷君!あの店何を売ってるの?すっごいカラフルだよ」
「あー。あれは、魔道装置専門店」
「電化製品みたいで楽しそう。使い方を説明してよ」
「いいよ、あっちいってみようぜ」

二人はまたもや色々な店先を覗いては、楽しげな笑い声を上げ始めた。

ヴォルフラムはそんな二人の後姿をじっと見つめたままで。
「・・コンラート、悪いんだが。僕はもうお役ご免にしてもらっていいだろうか」
あえて感情を抑えて言う。

「ああ、そうだな。後は俺が見てるからお前は先に帰っていいよ」
後は俺が責任持ってお子様のおもりをするからね、とコンラートは笑って付け加えた。

「すまない・・。では」
「後で執務室には顔を出せよ」
「判っている!」

ヴォルフラムは花を握り締めて、馬をつないでいる所まで走って行った。馬に乗った後は城まで一直線だ。

それからユーリは店を梯子させらたので、一人居ない事に気付いたのは随分経ってからだった。

「れ・・ヴォルフは?ヴォルフはどうしたの?」
「ああ、アイツなら先に帰りましたよ」
「・・なんだぁ。ヴォルフ帰っちゃったのか。俺に黙って帰るなんて、そんな水臭いヤツだったっけ」
あれ?と自分でも吃驚する声が出た。
凄くつまらなそうな、物足りない様な、そんな声だったのだ。

「・・ええ。アイツも今ちょっと忙しいんですよ。いろいろとね」
「いろいろ、何?」
「まあ、いずれ判りますよ」
「何だよやな言い方して。却って気になるじゃ・・あれ?橋本、それって」

ふと橋本の食べている、焼き菓子の包みをひっぱった。

「このシンニチ俺まだみてないな」
小さく畳まれている紙をガサゴソと広げてみる。

「陛下達の記事が載ってますよ」
「うん・・それじゃなくて。その隣」

自分達の記事の横には『クマハチの新しい両親誕生か』という記事が書かれてあったのだ。

ヴォルフラムともう一人、自分ではない男の名前が並んでいる。
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