別冊(Req)

□さよならを伝える方法
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U
 

「ねえ。渋谷君、あれ食べてみたい!」
「まだ食うの?ますます太るぞー!」
「もう、ホント意地悪だよね。地球に帰ったらダイエットするからいいんだもーん」

見上げた空は、雲ひとつない青空。

ユーリと橋本、それからコンラートとヴォルフラムの四人は視察もかねて城下に出ていた。
橋本は目にする光景全てが珍しいらしく、大仰な声を上げてはユーリに何かしらねだっている。
自分の恋人が魔王として皆から敬われているのも、彼女にとっては高いポイントのようだ。

「全くあいつらは信じられないな!こっちは遊びじゃないんだ!」
ヴォルフラムの眉間の皺がさらに深くなった。夕べからずっと付いて回っている皺だ。

「まあ、そう言いなさんな。俺達は俺達の仕事をするまでだよ」
対してコンラートはさして気にしてない風に見える。
「お前はそう割り切ってるかもしれないが。実際あの態度はかなり腹立たしいぞ」
怒りが納まらず、ぎゅっと拳を握るヴォルフラム。

それもそのはず。

何故なら二兄弟はずっと、ユーリ達に召使のように扱われているのだから。

暑いから、と帽子を探しにいかされて、戻ってみると別のものに興味が動いていたり。
糸の切れた凧のように風の吹くまま、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
はしゃぐ子供達に振り回されっぱなし。
それはもう、我侭ぷーでなくても不満が出てくるというものだ。

「はあ?次は花か!!」
呆れたような視線の先には小さな花屋。
二人が店の女主人に冷やかされている姿が目に入って来る。

「この花の花言葉は、真実の愛ですよ!綺麗でしょう?」
一本づつ、白い可憐な花が手渡された。

「やったー!嬉しいな。おばさんありがとうね」

彼女の笑顔は明るくてコロコロと、まるで飴玉のようだ。
「こうすれば可愛くなると思わない?」
早速花を耳の上に飾ってみたが、思い直したらしく、胸元のポケットに差し込んだ。

「へえ・・裏も表も真っ白なんだ・・。この花・・」
ピンク寄りでもアイボリーでもない白は確かに珍しい。

ユーリは色々な角度から花を眺めた後何を思ったのか、いきなり全速力でヴォルフラムの方に走ってきたのだ。

「おいヴォルフ、これこれ!」
相手が吃驚する間もなく、持っていた花を押し付ける。

「どうしたんだ?これは店の者がお前に贈ったものだろう」
「そうなんだけどさ。この花には俺よりお前の方が似合うかな、なんて思って」
ユーリはうーん、と頭を掻いた。

「まーいいじゃん。花には美少年ということで。俺みたいな野球バカには勿体ないって。まさに猫に小判だもんな〜」
早口で一気にまくし立てた。
「ふん、もしかして今日の詫びのつもりなのか?僕はこんなのでは誤魔化されないぞ」

憎まれ口を叩きながらも、ヴォルフラムはそっと花の香りを嗅ぎ、ありがとうと一言礼を言った。

それからゆっくりユーリを見上げる。
眩しい日差しに一寸睫毛を伏せて、見開く瞳は鮮やかに。
それはまるで、花が咲いた瞬間。

ユーリはヴォルフラムの顔に吸い込まれてしまい、もう目が離せない。

ヴォルフの顔をみてると、時々胸が締め付けられてぎゅっと痛んでくるのは・・・。
おまけに理由もなく悲しくなってしまうのはどうしてだろう。
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