別冊(Req)

□さよならを伝える方法
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その夜。
初めて橋本が血盟城に来た夜、ヴォルフラムはいつものように、ユーリの部屋にいた。

だが、穏やかな時間もつかの間。10時くらいに突然ノックの音がして、彼女が泣きそうな顔で入ってきたのだ。

「渋谷くーん。このお城お化けが出そうで怖いよ」
「いや、俺もここに長いけれどお化けって出た事あったかな・・?」
「あの甲冑が今にも動きそうで・・。ねえここで一緒に寝ていい?渋谷くん王様だから強いんだよね?」

目の前で起こるやり取りを、どうすることも無く眺めるだけのヴォルフラム。

「あのさ、ヴォルフ。悪いんだけど、そんなワケだからお前自分の部屋に戻ってくれよ」
「馬鹿を言うな!僕はお前の護衛もあるんだ。ここにいる!」
二人っきりになんてさせられる訳がない。
断固拒否しようとヴォルフラムがベッドに腰を下ろした瞬間。

女は言った。

「ヴォルフラムさんも居づらいんじゃない?だって私と渋谷君は恋人なわけだから・・当然、ね」
「は、橋本!?」
大胆な発言にユーリが目をまん丸にする。
だがユーリとは違って、素直に驚いてられないのがヴォルフラムだ。

「何だって!?もう一度言ってみろ」
あっさりと挑発にのってしまう。
「ま、まーまー。兎に角、普通の日本人にはこの城はハードだもんな。橋本のいう良く事判るよ」

ユーリの発言により、ヴォルフラムの負けが確定した。
そんな夜がもう、一週間も続いている。

「まあいい。部屋に帰る前にちょっと寄り道でもしよう」

恒例になりつつある、夜の散歩。
初めは唯頭を冷やそうとしてウロウロとしていたのだが、最近新たな楽しみを見つけてしまった。

「・・そろそろ孵化する時期だからな。僕もあいつらの親として見守ってやらないと」
あいつらとはクマハチの事だ。
迎賓館に再びクマハチが戻ってきて卵を産んだのだ。


去年とは違って、隣にユーリはいないけれど・・。


キイっと建物の扉を開けると、真っ暗な廊下が拡がる。
ヴォルフラムは予め用意しておいたランプに灯りをともし、音をなるべく立てないように歩いていく。

もっとも前回の教訓の元に建物自体が補強されているので大した音も立たないのだが。

「・・どうだ、様子は?」
前回とは違うところがもう一つある。クマハチ番が付いているのだ。

「まだまだですよ。閣下も気が早いですね」
動物好きが買われて見事大役を得たこの男はコンラートの隊の者で、砂熊ライアンの弟。

彼もライアンと同じく、恋愛よりはクマハチに興味があるらしい。
ヴォルフラムはそんな下心の無さそうな所が気に入っていた。
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