別冊(Req)
□最高の淫薬
1ページ/7ページ
あんな風におかしくなるなんて、些細な事がきっかけだったんだ。
騙す方が悪いのか。
騙されるほうが悪いのか。
ある日の午後。
俺とヴォルフラムは城の裏庭を散策していた。
執務からくる頭の疲労を解消すべく、軽いピクニック気分を味わおうと思ったのだ。
小さな池の隣にマットをひいて、体操座りをする俺達。
「ああ〜腹減った!体使うより頭使う方が腹減るってなんでかな」
きっと脳ミソを動かす為には沢山のカロリーがいるんだ。
「それは脳筋族のお前だけだぞ、ユーリ。まあ脳の栄養は糖分というから、菓子でも食べていろ」
早速焼き菓子をバスケットから取り出して、俺に微笑みかけるヴォルフ。
以前と全く変わらない、キレイな笑顔で。
「全く・・。いつまでたってもこんな王では先が思いやられるな。僕が結婚してビーレフェルトに戻っても大丈夫か?」
そして以前と変わらぬ、凛とした声。
ヴォルフは視線を池に移して、菓子をほおばる。
「お前・・やっぱり結婚するの?」
胸にチクリと、小さな痛みが走る。
「まだ、ちゃんと決めたわけではないが・・。多分な」
初めは冗談だと思ってた。
いつまでも、俺とヴォルフは気の置けない良い関係でいられると思ってたから。
王と臣下ではなく。友人として。
浮気者、とじゃれてくるアイツを俺が上手くかわす。
その心地よい関係を壊さない為だったら、婚約者という肩書きをずっとくっ付けていいとすら思っていた。
だけど。だんだんヴォルフが俺の部屋に来なくなって。
同時にエーフェがしょっちゅうアイツの部屋を訪ねるようになって。
初めは身分の差に驚いたけれど、男女が惹かれ合うのにはいろんな要因があるのだろうし・・。
「僕がいろいろ悩んでいた時彼女が一緒に悩んでくれたんだ。アドバイスをくれたり・・」
「悩みって。俺にはなにも言ってくれなかったじゃないか。俺だって相談にのれたかもしれないのに」
「お前には言えない事だったんだ。・・ユーリ」
碧の瞳はまだ、水面がざわざわと波立つのを見ている。
「突然でビックリだけど仕方ないか・・。王様として、いや、友達としてお前の幸せを祝福してやらなきゃな」
「・・ありがとう」
ヴォルフラムは別に男が好きだった訳では無いのだ。
本当のところはノーマルだったという事なのだろう。
出会ったばかりの頃はあいつも子供で、友情と愛情を混同してただけ。
(騙されていたのは俺の方・・)
そんな俺の心を反映させたのか、遠くの空が鉛色に変化した。
ポツリと睫毛に小さな一滴。
「大変だ。ユーリ!これは本格的な雨になるぞ。早く城に戻ろう」
「いや、直ぐやむよ。あそこで雨宿りしたらいいじゃん」
俺は、池の向こうのあずまやを指差した。
あずまやといっても華麗なつくりの建物だ。
「絶対に通り雨だって」
「・・・そうかな」
俺は上着を脱いで、自分とヴォルフラムの髪を庇いながら、あずまやの中に飛び込んだ。