別冊(Req)

□最高の淫薬
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あんな風におかしくなるなんて、些細な事がきっかけだったんだ。

騙す方が悪いのか。
騙されるほうが悪いのか。






ある日の午後。
俺とヴォルフラムは城の裏庭を散策していた。

執務からくる頭の疲労を解消すべく、軽いピクニック気分を味わおうと思ったのだ。

小さな池の隣にマットをひいて、体操座りをする俺達。

「ああ〜腹減った!体使うより頭使う方が腹減るってなんでかな」

きっと脳ミソを動かす為には沢山のカロリーがいるんだ。

「それは脳筋族のお前だけだぞ、ユーリ。まあ脳の栄養は糖分というから、菓子でも食べていろ」

早速焼き菓子をバスケットから取り出して、俺に微笑みかけるヴォルフ。
以前と全く変わらない、キレイな笑顔で。

「全く・・。いつまでたってもこんな王では先が思いやられるな。僕が結婚してビーレフェルトに戻っても大丈夫か?」

そして以前と変わらぬ、凛とした声。
ヴォルフは視線を池に移して、菓子をほおばる。

「お前・・やっぱり結婚するの?」
胸にチクリと、小さな痛みが走る。

「まだ、ちゃんと決めたわけではないが・・。多分な」

初めは冗談だと思ってた。
いつまでも、俺とヴォルフは気の置けない良い関係でいられると思ってたから。

王と臣下ではなく。友人として。
浮気者、とじゃれてくるアイツを俺が上手くかわす。
その心地よい関係を壊さない為だったら、婚約者という肩書きをずっとくっ付けていいとすら思っていた。

だけど。だんだんヴォルフが俺の部屋に来なくなって。
同時にエーフェがしょっちゅうアイツの部屋を訪ねるようになって。
初めは身分の差に驚いたけれど、男女が惹かれ合うのにはいろんな要因があるのだろうし・・。

「僕がいろいろ悩んでいた時彼女が一緒に悩んでくれたんだ。アドバイスをくれたり・・」
「悩みって。俺にはなにも言ってくれなかったじゃないか。俺だって相談にのれたかもしれないのに」
「お前には言えない事だったんだ。・・ユーリ」
碧の瞳はまだ、水面がざわざわと波立つのを見ている。

「突然でビックリだけど仕方ないか・・。王様として、いや、友達としてお前の幸せを祝福してやらなきゃな」
「・・ありがとう」

ヴォルフラムは別に男が好きだった訳では無いのだ。
本当のところはノーマルだったという事なのだろう。

出会ったばかりの頃はあいつも子供で、友情と愛情を混同してただけ。

(騙されていたのは俺の方・・)

そんな俺の心を反映させたのか、遠くの空が鉛色に変化した。

ポツリと睫毛に小さな一滴。

「大変だ。ユーリ!これは本格的な雨になるぞ。早く城に戻ろう」
「いや、直ぐやむよ。あそこで雨宿りしたらいいじゃん」

俺は、池の向こうのあずまやを指差した。
あずまやといっても華麗なつくりの建物だ。

「絶対に通り雨だって」
「・・・そうかな」

俺は上着を脱いで、自分とヴォルフラムの髪を庇いながら、あずまやの中に飛び込んだ。
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