別冊(Req)

□さよならを伝える方法
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夜の10時が近づいてくる。

ヴォルフラムは魔王部屋の窓際で本を読んでいたが、やがてその時間が迫っている事に気付いたのか。
静かに本を閉じて腰を上げた。

「じゃあ、そろそろ僕は部屋に戻る」
「ああ。悪いな。また明日」
「おやすみ、ユーリ」
「うん!おやすみ!」

明るく部屋を追い出され、後手に扉を閉める。
と、廊下の端から、自分とは反対に部屋に向かってくる人物が目に入った。

瞳と髪はユーリと同じ高貴な色。

「あ。ヴォルフラムさん。部屋に帰るの?おやすみなさーい」
「・・おやすみ。ハシモト」

彼女の名前は橋本麻美。
最近地球で出来たユーリの恋人らしい。

何故地球の、しかも普通の人間である橋本麻美が眞魔国にやって来たのかは判らない。

おそらく単にユーリのスタツアに巻き込まれただけの話だろう。
強大な魔力を持つユーリからすると人間を一人位スタツア同行させるなんて朝飯前なのだ。
だが問題はそこではなく、二人がびしょぬれになって噴水に現れた時の状態にあった。

ユーリが半裸だったのだ。
皆にそのいきさつを説明をしようと口を開いた途端ポメラニアンが喚き出したので、理由は判らずじまいだが。

「ユーリ・・!貴様はまた性懲りも無く浮気をしてたのか!」

タオルを持っていた右手がみっともなく震えて。
怒りのあまり顔を赤らめながら、ユーリにじわじわ詰め寄っていく。

「え?渋谷君、浮気って?この人だーれ?」
アニシナ製の通訳機を渡された橋本が話に入って来た。
ひとしきり驚いた後はすんなり現実を受け入れて、なかなか強かな一面を見せてくれる。

「うるさい女!僕はユーリの婚約者だ!」
ヴォルラムが怒りの矛先を橋本にむけると。
「えーやだ。貴方服装からして男でしょ?渋谷君そんな趣味があったの?」
橋本は気持ち悪そうに眉を顰めた。

慌てたのはユーリだ。

これ以上、ヴォルフラムが余計な事を言い出して橋本から誤解を受けたら大変だ。
彼女居ない暦16年の彼に、やっと上手く付き合えそうな彼女なのだ。

しかも、地球に帰った時に同性愛の噂でも流されたら堪ったものじゃない。
むしろそれが一番怖い。

「違う!違うって。こいつが勝手に言ってるだけだって。冗談に決まってんじゃん」
「あ。やっぱり冗談よね。渋谷君はノーマルだしね」
「あたりまえだって!俺は男なんて絶対にない!絶対にムリ!」

コンラートやギュンターも皆いたのに。
ユーリは男同士の恋愛をここぞとばかりに否定してしまった。

それがヴォルフラムの自身をも否定する事になるとも気付かずに。
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