別冊(Req)

□潮の導くまま
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白砂の上を容赦なく太陽が照りつける。
海は輝くエメラルドの色。
波打ち際にはかつて見たことの無い木が、艶やかな朱色の花をつけている。

ここはどこだ?
それは当の二人にも判らない。


「なあ、ヴォルフ〜。もう何日たったかなぁ」
ユーリは日焼けでかなり浅黒くなった肌に水を浴びせながら、じりじりする火照りを冷やしていた。

「もう、一週間は経っているな。木に彫った傷からすると」
片やヴォルフラムは魔族の肌質の所為なのか。真っ白な色が変わることなく、涼しげな顔だ。
それを横目にユーリは皮をぺりぺりむしる。くそ痒くてしょうがねぇ、と落ち着かない様子で。

「大体お前がなんでついて来たんだ」
「ついて来たって言い方はヒドいぞ。元はといえばヴォルフが・・・」

元はといえば。
こんな島に流されたのは、ヴォルフラムの船酔いが原因だった。

ユーリとヴォルフラムとコンラート、大賢者の四人は大シマロンに向かう途中の海原で高波に襲われた。
海に向かって嘔吐していたヴォルフラムは、三角波で揺れるマストから一直線に叩き落されて。
その姿を見ていたユーリが後を追うように、自ら海に飛び込んだというわけだ。

「下手したら、お前は死ぬところだったんだぞ。一国の王が。・・軽率にも程がある」

ヴォルフラムは自分を助けようと危険を顧みず、海に飛びこんだユーリの真意を測りかねていた。
素直に喜べればどれだけいいか判らない。
でも喜べないのは、ユーリの無謀さに腹が立ったのと・・。

彼が自分の事なんて友達以上に思ってないのを知っているから。
婚約だって、あれは事故のようなものだと言い訳をしている姿を目撃した事もある。

命懸けで助けようとしてくれたのは嬉しい。
でも。出来ればこれ以上、無駄に期待を持たせさせないで欲しい、というのが正直な気持ちだった。
鈍感な魔王には一生判りっこない感情だろうが。

「はあ・・。みんなまだ俺達を見つけてくれないのかな」
「一旦眞魔国に戻ればウルリーケが水晶球でお前の魔力を追跡する事ができる。それまでの辛抱だ」
「それまでって・・それまでに餓死したらどうするんだよ。ヴォルフ〜」

へなちょこの悪い癖が出る。本気で餓死するとは思っていないが、つい目の前の相手に甘えた口を聞いてしまうのだ。
まあ、まだ心に余裕がある証拠だろう。

「こら、ユーリ。食べ物は木の実でもなんでもあるだろう。魚だって」
ヴォルフラムの方が本当は不安なのだが、いじっぱりな性格からか弱音を吐こうとしない。

ここは人間の土地でも魔族の土地でもないらしく、法力に酔う事もなければ、魔力が増幅することもない。
要は、体を壊す事もなければ、楽に狩りをする事もできないのだ。
強大な力を有するユーリは別として。

「でも、何が起こるか判らないからな。お前も絶対に魔力を使うんじゃないぞ」

そう言ってヴォルフラムは、ユーリになるべく負担をかけないようにしていた。
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