言の葉あ遊戯、

□21
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─5歳の時に死別した父

─7歳で生き別れた母

─記憶はほぼ、ない




身動きする音にそっちを見てみれば牛鬼がゆっくりと体を起こしているところだった

「あ、起きた?」

ボクのその声に牛鬼が視線をこちらにやったので口元に笑みを浮かべる

「ケガはなんとかなったみたいだ。よかった!」

チラリと自身の体を見る牛鬼。傷痕は少し残っているが傷口は殆ど塞がっている。勿論ボクが負った傷ももう殆どない。傷の手当てをしたのは琴美だ。震える手で傷を癒やしていた琴美は夜通しで牛頭や馬頭の分までの傷を治した。今は疲労が溜まったのかここには居らず別室で眠っていて、護衛として黒羽丸とトサカ丸がついている

「君の部下は迅速だね、牛鬼。あ、後で琴美にお礼言っててね?牛鬼もそうだけど牛頭や馬頭の傷も治してくれたみたいだからね」

「……リクオ…?」

昨日の事なんて覚えていないという風な雰囲気のボクに牛鬼が困惑したように名前を呼んだが聞こえないふりをして彼の頭に氷の入った袋を乗せた

「リクオ……本当に、朝になると変わってしまうのか…」

「……………」

少しだけ開けている障子の隙間から外を見つめる。朝になろうとしているのか空には白が霞んでいた

「今は、人間だよ」

「覚えて…いるのか」

噛み締めるように言葉を発する牛鬼。ボクは肯定するように頷いた

「覚えてる。昨日のことも、旧鼠のことも、蛇太夫もガゴゼも

全部、ボクが殺ったって…知ってるよ」

風がサァと流れてボクの髪が靡く。牛鬼が真っ直ぐボクを見つめるのが気配で分かった

「そろそろ、覚悟を決めるときなのかな…いつまでも目を閉じてられない」

ゆっくりと立ち上がりながら牛鬼に背を向ける。障子に手をかけながら言った

「怖いけど…本当は平和でいたいけど、“守らなきゃいけない仲間”も“大切な人”もいる

この血にたよらなきゃいけないときもあるって、知ったから─」









***


「──牛鬼が百鬼夜行にいてくれたら…うれしいよ」

その声と共にリクオ君が牛鬼の寝ている部屋から出てきた。私を見つけたリクオ君が小さく微笑みながらおはようと言ったので私も笑顔で返す

「よく眠れた?」

「……うん」

「…嘘つき。目の下、すごいクマだよ」

歩み寄ってきたリクオ君が私の目の下、クマのある部分を親指の腹でなぞった

「夜通しで負傷してる人の傷を治してたんだから疲れるに決まってるでしょー」

「あはは、ごめんね」

苦笑を零すリクオ君は私の手を取りながら指と指を絡め合いだした。どうしたのー?といつもの調子で聞けば真剣な顔をしたリクオ君と視線がかち合う

「ボク、三代目を継ぐことにする」

「…そっかぁ」

「琴美はずっと側に居てくれる?」

「…リクオ君が嫌って言っても側に居ちゃうよー?」

「離れるなんてボクが許さないから」

クスリと笑ったリクオ君があの時と同じことを言った

「琴美…ボクが三代目に就任したら、夫婦になろう」





111114 りん汰

 

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