言の葉あ遊戯、
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「千羽様、千羽様。お久しぶりでございます」
汚れるのも気にせず膝をつき、手を合わせる彼女。言葉に詰まる溢れんばかりの想いに私は笑みを零した。こんなにも想われて、千羽もよく信仰がないだなんて言えたなぁ
「いつぞやはお世話になりました」
チラリと千羽を見ていれば信じられないという風に彼女を見ている
「あの時は無事孫も元気になりました。ここ最近はおまいりも出来ず、申し訳ありません」
暖かい気持ち。切実な願い。言霊だからこそ分かる詰められた想いに瞳を伏せた
「また─…あの子をお救いください。あの子が─…自分で折った千羽鶴だけど」
──あの娘を助けて下さい。
お前には聞こえるか、千羽。この言葉では言い表せない感謝や願いが、
「─お助け下さい」
こんなにも年老いるまで千羽の事を想い、信仰し、忘れなかった彼女の気持ち。私だって神の端くれ。
これ以上の喜びは、ない──…
「千羽、私と契りを結ばないか」
「……契り?」
「…信仰という言葉、今の世は薄まりつつあるのは知っているよね」
「…えぇ」
闇が薄くなるのと一緒で、信仰も薄くなっているのだ。だから消えゆく神がいる
「私は言霊─…人々の想いや言葉の結晶だ。そしてお前は助けたいという想いの結晶」
だから、私が彼らを消さないように、人と神の架け橋になれば良い
「私が人々の想いをお前たち土地神に伝えよう。だから千羽、お前たちは自分の出来ることをしてくれないか?」
人々の想いを集め、神に伝える。言霊だから想いを集めるのはとても簡単。私が架け橋になってやろう。お前たちの為にも、祈る彼女の為にも
「出来る、こと」
復唱するように呟く千羽に頷く
「なんだ。この想いだけでは動けないのぉ?」
「…ご冗談を。これ以上の喜びや、原動力は─…ない」
─お助け下さい、千羽様─
─どうか孫を─
─千羽様、千羽様─
「私の言の葉を貸そう」
「感謝しても仕切れません」
サァッと私の周りに風が吹く。ずっと黙って聞いていた焔乃が一歩後ろへと下がった。瞳を閉じて彼女の想いを聞き取り、それを言の葉へと変える
フワリ、フワリと指揮するように手を緩く優しく動かした。風が暖かみを帯びて手元へと集まる。この暖かい想いを千羽へと届けるように言の葉を駆使すれば、それを受け取った千羽がキラキラと輝きだした
辺りには小さな折り鶴が舞う。幻想的な景色の中、ゆっくりと振り返った千羽が優しく笑った
「ありがとう。後は任せて下さい」
光となった千羽はゆらりゆらりと病院内へと入っていく。力の膨大さを表しているのか、主が離れた今尚、折り鶴は光輝き宙を舞う。これを普通の人間にも見せてやりたいと思った。それぐらい、綺麗だ
「とても素敵な想いは力を何千倍にも跳ね上げるんだねぇ」
「主様の力も合わさり、より強い願いとなったのでしょう」
焔乃の言葉に、そうだったら良いなと笑った
「おばあさん」
「…─すけ下さい…どうか孫を……、」
「風邪を引いてしまいますよ」
濡れて冷えてしまった体を温めるように自分が着ていた羽織りを彼女にかけてやれば、気づいた彼女は首を傾げる
「…─あなた、は」
「私は言霊。人々の想いや言葉の結晶」
言の葉で宙へと浮かせた彼女を車椅子へと座らせてやった。言霊ときいて目を見開く彼女に笑みを見せて両手を軽く握る
「あなた様が、言霊…さ、ま…」
「あなたの想い、この私が言の葉にして千羽へと届けて参りました。もう大丈夫。お孫さんは元気になりますよ」
そう言えば彼女はありがとうと優しい涙を零した
120305 りん汰