言の葉あ遊戯、

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「おそらく─…もって夜明けまで」



このままなら死ぬ。その言葉は私に全体重をかけたかのようにズシリとして重かった。千羽と名乗った土地神は私をジッと見てきたので緩く首を横へと振る

「…琴美様のお力でも無理なんですか」

「言霊は世の理には手を出せない」

言霊とて万能ではない

「呪いが微々たるものとは言え死に直行するもの。“死”じゃなかったら助けれたけど…その理をねじ曲げれるのは神だけだよ」

お前はどうなんだ、という風に千羽を見やれば彼も首を横へと振った

「小生は…所詮、願掛け程度の小物。あの呪いは何もできぬ…」

「困ったなぁ」

八方塞がりじゃないか。このままじゃ、夏実ちゃんが死んでしまう

「人間など…どーでもいいが…」

遠くを見つめながら黒田坊が呟く

「この娘は……ちと困る」

……。

困る以前の問題だ。まったく、えらい騒ぎになったな

「例えばの話なんだけどねぇ」

振り向く黒田坊と千羽にもしも、の話をする

「呪いを解けば…まぁ簡単な話、あのチビ倒したら呪いは解けるのかなぁ」

「…!なるほど…その手がありましたか!」

いや、だからもしも、だってば。私の話を聞かずに走り出す黒田坊を千羽が止めた

「黒田坊様どこへ!?」

「あの地蔵を探すのだ」

琴美様、リクオ様が心配されておりました。早めに帰還を。と口早にそう言って消えた黒田坊に呆れて溜息が出た

「…─情けない話だ。目の前の少女でさえも救えないとはな……」

聞こえた小さな声に千羽を見てみれば泣いているように見えた。神の力の源は人々の信仰だ。特に千羽は人を助けたいという気持ちが集められた願いや想いの結晶。信仰が少なくなったり、誰も詣らなくなった神は消えてしまう。儚い者だ

あの小ささは何年も千羽の元へと詣っていない証拠。あのままではいずれ千羽は消えてしまう

そうなれば、奴良組のシノギや信仰が無くなり、崩れていく。今はまだ大丈夫かもしれないが、この先は分からない、他にもこんな状況の土地神がいるかもしれない

一応私だって、精霊の類だが、種族で言えば神の端くれ。土地神よりも上だ。出来ることぐらいある。ポツポツと降り出した雨。あぁ濡れちゃうな。言霊を使えば濡れずに済むが、この後の作業を考え今は使えない。髪や着物が濡れてへばりつく。

「諦めるの?」

「……言姫様…しかし、小生は…何も出来ない。信仰が無くなり、こんなに小さくなってしまった、今の小生には…」

自身の両手を見つめて話す千羽に私は微かに笑った

キュイ、キュイ。私には聞こえる音、声、想い

「本当にそうか?」

キュイ、キュイ。ほら、こんなにも素敵な音なのに

「……え、」

キュイ、キュイ。すぐ近くまで来ている想いがあるのに気づかない千羽は馬鹿だなぁ


「信仰は無くなったのか?想いは無くなったのか?…本当にそうか?」


立つ位置をズラしてそこを退けば、遠くからこちらへ向かう人影。私という壁で見えなかったが、今なら千羽にもハッキリ見えるだろ。キュイ、キュイと音が近づく。それにつれて想いが大きく、鮮明に聞こえてくる

「…ぁ、…彼女は、」

端に寄り、自分の存在を消して彼女がこちらにやってくるのを静かに待った





120305 りん汰

 

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