言の葉あ遊戯、
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「大幹部とはいえ、この程度か」
「弱体化してるってのは本当みてぇだな」
俺がやったのは覚えている。だが、何かが違う。何かを忘れているような、忘れてないような
自分が気づいた時、何故か俺は死体の上に倒れていた。やられた覚えはなかったのに、それに、記憶が朧気で曖昧だ
「聞いているのかい?ムチ」
「…!……あぁ」
玉章に返事を短く返せば奴は狒々の死体を見つめながら口を開いた
「…奴良組は今もろい。頭を失えば、すぐに崩壊する」
そうだ。俺は狒々を殺ったはずなんだ。この調子なら、ぬらりひょんだって容易く殺せるぞ
─ある者は、偽物の記憶で自信をつけた─
***
「あらためて奴良組三代目総大将となる!」
木魚達磨の声を聞きながら今居ない、琴美の事を考える。琴美、結局…帰ってこなかったな
怪我していないだろうか?などしか考えれないくらい心配しているのに、未だ音沙汰はない
烏天狗が町中のカラスを使って全力で捜索しているらしいが、目撃情報はなし。ある意味凄い、としか言いようがないよ
(はぁ…琴美、無事かなぁ)
─ある者は少女の安否を懸念していた─
***
「な、んだよ…これ」
嫌な予感がして久し振りに実家へと帰ってみれば、家中が血の海だった。生きている奴は1人も居らず、親父がいつもつけていた能面がボロボロに砕け散って転がっている
その傍らには親父だろうと思われる背中。ただ、そこは一番血の海が酷くて、一目見て分かった──
「死、んで…る…」
その死体の顔を見る勇気は今の俺には無かった。ただ、その背中も、髪型も、何度も何度も見た、見覚えのある者だったから…顔を見ずとも分かる
「っ、…親父っ」
冷たい“何か”が頬を何度も何度も伝った
─ある者は死を受け止めきれずに涙した─
***
「……く、…傷が深い…毒も思った以上に濃いーなぁ」
吹き出る汗を焔乃が甲斐甲斐しくタオルで拭き取り、言の葉を駆使する私の補佐をしている。両手に畏れを集めて傷口へと翳せば、だんだんと閉じていく傷口。だが、さっきも言ったが思った以上に毒が濃くてなかなか閉じない。解毒と同時進行で治療を行うのは流石に無理があったみたいだ
このままでは私が倒れてしまう。そうなれば狒々様を治療出来ない。瀕死状態の今は早急な対応が絶対不可欠、倒れる訳にはいかないなぁ
「焔乃、閉じた傷口は包帯を巻いて。それが終わったら閉じていない傷口にガーゼを当てて止血」
「はい」
「少しの間、解毒作業に集中するから補佐よろさくねぇ」
「御心のままに、主様」
小さく笑って、言の葉に力を注ぎこんだ
─ある者は未来を変えようと奮闘した─
それは、全てが交差する一週間の始まりの合図
120205 りん汰