言の葉あ遊戯、
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「………あ、」
「?、主様?」
不意に立ち止まった私に焔乃が首を傾ける。神楽を扱えるようにと焔乃が稽古をしてくれて大分扱えるようになった。…戦えないが
まぁ、それは置いておいて、その稽古と同時進行で精神力も高めている最中で、神通力を駆使できるようにと力の制御をしていたのだが…
「うん。ヤバい、焔乃」
激しい頭痛や、いきなり視えることはなくなったのだが…逆に冷静になって視ているから、何て言うか、
「狒々様が襲われてる」
どんな表情で言えば良いか分からない。いきなり視えたりするから緊迫してるけど、視ようとして視れば、冷静状態だから、なんともまぁ言いにくい
「は?」
「うん?いやだから、襲われてる」
「今、です…かえ?」
「うん。なうだねぇ」
襲われてるなう。緊張感の欠片もないな
「な、なに呑気になされてるのですかえ!急がないと!」
「ですよねー」
苦笑を零しながら鳥になった焔乃の背に飛び乗った
***
「くさー」
「もの凄い血の臭いですね、急ぎますよ主様」
「うん、頑張ってー」
背中を一撫ですれば焔乃は小さく鳴いて飛ぶスピードを速める。狒々様の屋敷に近づくにつれて濃くなる血の臭いに眉を寄せた。この濃さ、尋常じゃない。まさか、屋敷内の者を全員殺したのか?
「見えました!主様」
「…スピードを緩めずにアイツに突撃して」
体制を低くして神楽を構える。まだ遠いから見えにくいが、あれは狒々様だ。ボロボロで死にかけているが、まだ生きている。そんな狒々様の目の前に立つ長身の男はトドメを刺そうとしているのか腕を振り上げていた
「っ、ちっ」
「な、主様っ!」
間に合わない、と焔乃の背から飛び降りて長身の男目掛けて神楽を振り下ろせばいち早く気づいた男が後ろへと後退する
「…、……誰だ」
「通りすがりの者です」
微かだが狒々様からまだ息をしている気配がする。他に生存者はと周りを見渡したが、狒々様以外…みんな死んでいた
未来を知っていながら、私は守れなかった…のか。どうしようもない、やるせなさが心を支配しそうになったが、グッと堪えた。まだ狒々様は生きている。1人でも、守るんだ、と神楽の矛先を目の前の男に向けた
「………邪魔をするなら貴様も殺す」
「へぇ、言うねぇ…ま、君は私に勝てないよー」
にんまりといつもの調子で言えば男の眉がピクリと動く
「なんだと」
「君みたいなザコに負けてあげるほど私は優しくないんだぁ」
「戯れ言を─、っ」
「どうしたの?攻撃、しないのかなぁ」
腕を振り上げた状態のまま動かない彼に理由を分かっていながらも聞いてみれば調子に乗りやがって、との苦し紛れの言葉
「ほらほら、攻撃しないの?しないなら……こっちからするよ」
「っ!?」
動かない理由は至ってシンプル。言の葉で彼を動かないようにしているからだ。でも彼は今、私を畏れたから、もうこちらの勝ちは決まったような物
「焔乃、狒々様を」
「御心のままに、主様」
嘴で器用に背中へと狒々様を乗せるのを横目で見ながら神楽を鞘へとしまい、男へと近づいた
「私に畏れた君にはもう拒否権はないんだよね」
「な、にを──」
人差し指を男の額へと、トンっとついてニコリと笑う
「悪いけど、こちらが動き易いように記憶を変えさせてもらうねぇ」
「貴様っ、…っあ」
「じゃあね。次、会うとしたら君にとっては“初めまして”だね」
ドサリと男が倒れた音が嫌に静かな屋敷に響いた
120204 りん汰