お義と女子高生小説

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学校帰り。気付けば雪の積もる森の中に居た。身体が冷たくて固くなるし、お腹が減った。ご飯を一日でも「食べられない」という状況に置かれた事の無い私は、体験した事の無い空腹感に苛まれた。スクバを漁って見付けたのど飴も尽きた時、私は雪の中に埋もれた。
ストッキングを履いた足と雪との温度が変わらなくなるのが分かった。コンタクトが吹雪の中で飛ばされる、やだ、目までよく使えなくなるなんて。頭は必死にフル活動、色々考えるし、走り出したいのに、動かない身体に悔しくて悲しくて泣き出した。涙も雪に呑まれて氷になる、ろくに働かない私の頭でも「死」というのはよく理解出来た。
何よりも、怖い、と思った。私、こんなところでしぬの?傍に誰も居てくれないの?わたし、死ぬときは好きな人を手を繋いでって夢があったのに。
…お母さんに会いたい、お父さんに会いたい、友達に会いたい、大好きな人たちに会いたい、


(ウソ、)



「娘!しっかりしろ!!」




聞こえたのは、凛とした、強い、女性の声。
吹雪を裂くような声に私は何故か泣いてしまった。私の身体を支え、頬を叩く手がぬくい。あぁ…こんなに人間ってあったかかったかなぁ……

「生きて、ま…す」
「おぉ!喋られるか…私の庵まで運ぶ故、少し辛抱するのだぞ」
「あ、りが、とう…ございます…、」

安心したのか頭まで力尽きたのか、私は優しい闇に落ちた。

「八弥(はちや)!急ぎ庵に行き火を焚け!」
「はっ!」




* * *

打掛をはためかせて歩く初老の女と、それを追う青い木綿に身を包んだ若い男が庭の見える廊下を歩いている。初老の女は肝の座った事で知られる最上義光の妹の「義」、若い男は年少より義に、最上に仕えている忍びの「八弥」と言う。
主従である彼らは珍しく何かを巡って言い争っていた。

「怪し過ぎます!あの娘は…!」
「……。」
「持ち物も、服装も、みた事がありません!しかもあの髪、傷ひとつない肌…。民にしては綺麗過ぎますが、深窓の者にしては無防備です。この得体の知れない娘を置くのは、承知できません。いくら義様の言う事なれどっ、」
「だが八弥…このような力の無い弱った娘をおまえはほうり出せるのか?」
「力の無い振りをして懐に入り込む女忍を、私(わたくし)は大勢知っています。それに、力無くして死ぬ者はこの世に溢れております」
「…こんな間抜けな草がおるか?雪山の中で倒れ、みすみす持ち物を晒すなどと…。それに懐に入り込むと言ってもこの庵には私とお前と侍女だけじゃ。しかも男のお前の存在は公には知られておらぬではないか」
「……無害と思わせて入り込む策かも知れません!巫女に化けたり遊女紛いの女忍も出てきてっ」
「………」
「義様!」
「わかった。」
「…!では!」
「この庵から出して、町の………。そうだな、明之沢に預けよう。」
色を戻した八弥の顔が、また直ぐに色をなくした。
「草であれば、明之沢殿に危害が加わるやもしれません!…義さ「静まれ」

唾をも飛ばしそうな勢いの八弥に義は強く言い放つ。いつもは粛々と命を守る八弥がここまで言う事に驚きながら、庵の一番端にある部屋の襖を見つめた。八弥は不服そうにした後に、襖に写る細長い影に暗器を構えた。

「起きたようですね」
「手荒はするなよ」
「場合によります。お館様の命です故、貴女様を守るのは。」
「……忍びと言うのは……」


義は八弥を一瞥してため息を吐いた後に、わざとらしく足音を立てて部屋に近付いて行った。



細長いあの娘の影に、遠い面影を重ねて。あの娘を愛せば体の黒い靄が薄れる気がして。

足音と一緒に月光に照らされた雪がしんしんと音を鳴らしていた。








「あっ!!」

娘らしい細い声色が雪に響く。
襖の真ん前でこの襖を開けるか開けまいか思案していた朝音は突然の訪問者に声を上げた。
訪問者、もとい義と八弥は娘を二者が二者の視点で見つめている。
(このように背が高い女子がいるとは、しかしほうけた雰囲気の女子だ…)
義は娘の背丈や無防備さに呆れやら感心を。
(襖の前に立って何をしていたのだろうか…。それにしても珍妙な髪だ…農民の子供より短いし、犬の毛がごとき色…)
八弥は相変わらず怪訝そうに探り。

(……なに…?なんなの…?すっごいみられてる…!)

凝視されながらも沈黙を破ったのは娘だった。


「あの…此処は何県でしょうか…?出来たら電話も貸して頂けませんか?親に連絡を取りたいので…。」

控え目に、出来るだけ丁寧に朝音は言った。
何せ目の前のおばさんと青年は時代劇に出て来るような(しかも現代に残る着物とはまた違う、大河ドラマみたいな)、いやまさに撮影中でーすみたいな格好なのだ。この方々には生意気は駄目だと第六感が言うので朝音はひたすら下に行こうと心に誓った。
それに…その人自身からなのか着物効果なのかだいぶ威圧感があるし。


ビビりながらも電話と住所頼んでみた。だって携帯は圏外なんだ。

(…もう早く帰りたい…!)

それにしてもまだ沈黙なのか。直ぐにでも「あぁ此処は○×県の●○という場所ですよ。あ、電話は階段降りて突き当たりですから〜。」なんて言葉が返ってくるだろうと質問したのに…!もしかして県じゃなくて北海道?道?道だった?!
益々混乱しながら恐る恐る二人の顔色を伺って男の顔に朝音は益々ビビった。(コンタクトがないからぼやけてるけど、怖い、)


そんな私に男は反社会的勢力の方々のような怖い顔で私を指差し言った。


「やはりほうり出しましょう。」



………なんで?!



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