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□満点の星空と、君との約束
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7月にも入り、学生は一学期最後の難関。所謂"テスト期間"を迎える。当然俺らも例外ではなく、期末テストの日を迎えていた

テスト期間は部活動禁止令が出るため、その日のテストが終わったのと同時に学校を後にする。
俺はテスト期間が好きだった。テスト自体は鬱陶しいが、テスト勉強を理由にいつもより長い時間柳生と二人きりで過ごせるからだ。(まあ真面目にテスト勉強した覚えがあまりないのだが)
今日もいつものように柳生の家で勉強する約束を取り付け、足取り軽く柳生の横を歩く。今日のテストの出来や明日のテストの話など、たわいもない会話をしていると、ふと柳生が空を見上げた





「昨日は天の川……見えませんでしたね」
「そういえば昨日は七夕じゃったのう…」




昨日は7月7日。そう七夕だったのだ。でも生憎の曇り空で、残念ながら天の川どころか星一つ見えなかった





「妹がすごく楽しみにしてて、笹に短冊をかいて飾っていたのですが……」
「ほぅ、短冊か……柳生は何もかいとらんのか?」
「私ですか?私は何も書いてないですよ。もうそんな歳でもないですし」




それに短冊に書くような願い事も思いつきませんしね



そういいながらも、やはり昨日の天気が残念だったのか。少し苦笑いを浮かべながら空を仰ぐ





「………柳生。ちょっとこれから出掛けんか?」
「え、仁王くん。何を言ってるんですか!?明日もテストなんですよ!!」
「そげなもん帰ってからいくらでも出来るやろ!」





仁王が不意に柳生の手を握って走り出す。公衆の面前で、しかも真っ昼間から手を握られ、柳生は一瞬狼狽えつつも手を離そうとする。だか思いの外しっかりと握られた手をはなすことも出来ず、それに仁王に手を握られるのは嫌ではなかったし、何よりこの状況を楽しいと思ってしまっている自分がいた





「帰ったらみっちり勉強させますからねっ……!!」





耳まで真っ赤にさせながら、自分もこの状況を楽しんでいることがバレないように、強めの口調で柳生は言った
それはわからん。と笑いながら、仁王は走りつづける







暫く走りつづけた後、ある建物の前に着いた瞬間に仁王が立ち止まる





「ここは………」
「さっ、入るぜよ」





その建物の中に二人、入っていく。外の気温とはまるで違う、空調のきいたひんやりとした空気に少し震えながら、席を探す。




「このあたりがええかの」





適当に席を見つけ二人でかける。座席は後ろに倒せるようになっており、ある程度の角度をつけて倒す





「やっぱ平日はすっからかんじゃのう」





仁王は当たりを見渡してクスクス笑う。やはり平日の昼間となるとお客さんはいないようだ。その様子に柳生も頷いて笑ったが、ふと気になることを聞いた





「それにしても何故急にプラネタリウムなんですか?」





そう。仁王は柳生をプラネタリウムに連れてきたのだ。突然のことに驚いている柳生に仁王はあぁそれは。と思い出したように言う





「や、なんかお前さんが天の川みれんかったんが寂しそうじゃったから」







だから人工的でもいいから天の川をみせてやりたい思っての







そう言って、柳生にしか向けることのない優しい笑顔を向けた





「そ、そうなんですか……あ、有難うございます……//」





仁王の思いがけない一言に思わずドキリとしてしまった。この人はどうしてこんなに優しいのだろう。思わず胸が熱くなるのを感じた





「お、始まるみたいじゃの…」





仁王くんの言葉のあとすぐに、星の説明をするアナウンスが始まった。それと同時に天井いっぱいにひろがる人工的な星空に目を移す
プラネタリウムなど、いったいいつぶりなのだろうか。自分で覚えている限りでは、小学校低学年以来ではないだろうか。そのときの自分はこの天井いっぱいに浮かぶ星空をみて、いったい何を感じたのだろうか。
そんなことを考えながら、幾つものの星について説明しているアナウンスに耳を傾けていた





『………そして左下に見えますのが、あの天の川でございまして…………年に一度、織り姫と彦星が落ち合う場所と言われております。』





ふ、と仁王の手が柳生に触れた。

そしてソレがそっと優しく握られる





「にっ仁王くん……!」
「しっ、大丈夫じゃよ。俺らしかをここにはおらんのじゃから」





な?と言われてしまえば断ることなどできず。いや、最初から断ることなどする気はなかったが、性格上、やはり公衆の面前。とゆうのが気になってしまうのだ





「仕方ないですね……」





そういいながら、柳生は仁王の手を優しく握りかえした。それに気付いた仁王はクスリと微笑み、柳生に視線を向ける





「のう柳生」
「何ですか?仁王くん」
「さっき、短冊に書くような願い事はないっちゅーとったよな?」





先ほどの会話の内容を思い出す。

自分は確かにそう言ったのを覚えている



「俺はあるぜよ。まぁ最もカミサマやら織り姫やら彦星に頼るつもりはさらさらないが。ずっと心ん中で願っとることが」




仁王の真剣な言動と眼差しに、目を反らせないでいる柳生を見つめて、仁王は続ける





「俺はずっとこの先もお前さんと一緒の時を過ごしていきたい。何があっても絶対離さん。離れたいゆうても絶対はなさんからの」







『まぁ俺らは絶対に離れらんけん。心配はいらんがな』






何処からそんな自信がわいてくるのか。

でも根拠のないその言葉に思わず涙しそうになる自分がいる

この人はいつもそうだ。

自分が欲しい言葉を必ずくれる

ふと、不安になるときがあってもこの自信に満ちた言葉を聞くだけで前向きになれるのだ





「私だって………あなたとずっと一緒にいたい。でもこれは織り姫や彦星にお願いしてかなえてもらうことではなく、あなたと一緒に叶えたい願いだから」






だから、短冊に書くような願い事はないでしょう?







そう言って微笑んだ柳生の表情に思わずみとれる

いつだってそうだ。この紳士は思いもしない言葉を紡ぐ





「じゃあ、その願い。俺が叶えてやるぜよ………」











……………―そんかわり、俺の願いも叶えてくんしゃい?











満点の星空の下。







その星は人工的に作られたものだけど。







この気持ちは心からの素直な気持ち







それを確かめるように







そして、約束の契りとして







軽く唇と唇を触れ合わした











満点のと、君との約束

(僕の願いを叶えてくれるのはいつもキミ)

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