3年D組みんな仲良し

□彼らと僕のめくるめく日々
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 レオの合図で試合が始まり10分。僕と日村は早くもコートの外にいた。

 後で聞いたら、これはレオの作戦だったみたい。

 わざと顔にボールをぶつけて、僕が眼鏡の調子を確認している隙に、もう一度ボールをぶつけてコート外に追い出す。

 病み上がりの日村は思うように動けず、真っ先にボールを当てられちゃったし。

 残った桜井をレオ・海生・ヒナタの3人でじわじわ追い詰める気だったみたいだけど、ここでめんどくさがりで飽きっぽいヒナタが、桜井の投げたボールにわざと当たって外に出ちゃった。

 人数が少ないから、始めから外野は作らず、ボールが当たったら、コートの外でボール拾いしつつ待機というとり決めにしていたから、僕らはコートに残された3人のやりとりを眺めていた。

 観戦をしていて思ったけど、僕はスポーツをやるよりも見てる方が向いてるみたいだ。でも、向き不向きはあっても、やっぱりドッジボールは見てるよりも自分でやる方が楽しいよね。

 どれくらいしてからか、試合に動きがあった。

 桜井がやけくそで投げたコントロール最悪のとんでもないボールが、海生の顔面を直撃しちゃったんだ。

 鼻をおさえてうずくまる海生と、海生にかけよる桜井。そんな桜井に「何てことしてくれたんだ!」と怒るレオ。コート内はてんやわんやして、大変そうだった。

 レオだってさっき僕の顔にボールをぶつけたんだから、あんなに怒ることないと思うのになー。

 でも、レオがあんなに怒るなんて、それだけ海生のことを心配している証拠だよね。

 そう考えると、海生がちょっと羨ましいかもしれない、なんて。

「おい、花菱。何かヤベェぞ」

 隣のヒナタが僕の腕を叩く。

「そうだねー。大変そうだねー」

「何処見てんだよ。あっちじゃねーよ。こっちだよ」

「こっち?」

 見ればヒナタの向こう隣に座っていた、日村がぐったりとして、床の上に寝転がっていた。

「あれー、日村ダメだよ、こんなとこで寝ちゃ」

「アホっ! 寝てんじゃなくて倒れたんだよっ! おいっ、もめてる場合じゃねーぞ!」

 そう怒鳴りながら、ヒナタはぱっと立ち上がって、コート内の3人の元へ走っていった。さすがヒナタはすばしっこい。

 すぐに桜井と海生がこちらへ駆けてきた。

「日村、大丈夫か? ごめんな、俺がちゃんと気をつけてればよかったのに」

 桜井はさっさと倒れてる日村をひょいっと背中におぶった。

「先生にはヒナタに伝えてもらってるから、海生は教室に行って、念のため日村の荷物と着替えを保健室まで持ってきてくれ。花菱は俺と一緒に来い」

 こういう時、てきぱき動ける桜井はやっぱり頼りになるお母さんて感じだ。

 日村と、日村を背負った桜井と、僕。3足の体育館履きを持って、保健室へ向かう。

「しっかりしろよ。もう少しで保健室だからな」

 時々、背中の日村に声をかけながら桜井はせかせかと歩く。僕はついて行くのがやっとで、だからギリギリまで日村の変化に気付けなかったんだ。

「あれ、桜井、ちょっとタンマ」

「何だよっ?」

 イライラしたように桜井は立ち止まって、振り返った。

「日村が変だよ」

「あ?」

 さっきまでグッタリして目を閉じていた日村が、今は目を見開いて、口元を手で押さえて、桜井の肩に爪をたててる。

「あ、何か吐くみたい。もう、限界みたい」

「そうゆうのは早く言えっ!」

 桜井は怒鳴るみたいに言って、一番近くのトイレまで猛ダッシュしていった。僕も慌てて追いかけていったけど、桜井の足が早すぎてか、僕の足が遅すぎてか、だいぶ遅れをとっちゃった。

 僕が男子トイレのドアの前に、息咳切らして駆けつけた時には、もう全て終わってたみたい。

 ドアの隙間から、眉を下げて申し訳なさそうな表情で顔を覗かせた日村が、

「……悪いんだけど、保健室に行ってタオル貰ってきてくれるか? それから教室に行って、桜井の着替えも取ってきてあげて」

 と小さな声で言ったから、間に合わなかったんだろうね。

 気の毒な桜井。でも日村の顔色が幾分かよくなってたし、出してすっきりできたんだから、結果的にはよかったよね?
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