3年D組みんな仲良し

□杏奈嬢と七人の無礼者
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 電話口で簡単に事情を説明して、5分後には、図書室にいた桜井と、生徒会室にいた花菱がグラウンドまで来てくれた。

「桜井、花菱、悪いな。委員会の仕事中に」

「いや、構わないけど。なんかめんどくさいことになってるみたいだな」

「で、どこにいるの? リカちゃん先生の姪っ子」

 苦笑する桜井と、好奇心旺盛な花菱を、杏奈は冷めた目で見上げている。うん、やっぱり駄目そうだな。

「真田 海生」

「……はい」

 口元に手をやる杏奈。内緒話か。話しやすいように身を屈める。

「なんなの、やたら目つきの悪い時代遅れのヤンキーと、一年中頭の上からチューリップ咲かせてそうなボケボケ男はっ」

「ヤンキー……」

「ボケボケ?」

 杏奈の配慮も虚しく、二人にはこちらの会話がばっちり聞こえてしまったらしい。とりあえず、適当に笑って誤魔化しとこう。

「あたしはもっと理知的で、ミステリアスな雰囲気を醸し出している男性がいいの。あたしの好みとは相反する方を連れてこないでくださる? 期待したあたしがバカみたいじゃないのっ」

「でも、俺、杏奈ーー嬢の男の趣味なんて知らなかったし、」

「言い訳しないっ!」

「すみません……」

 ぴしゃりと言われ、肩をすくめる。何で小学生の女の子に怒られて、こんなびくびくしなくちゃいけないんだろう?

「ごめんなさい、杏奈嬢。ご期待に添えなかったみたいで」

 何も悪いことなんてしてない花菱が、杏奈の前にしゃがみ込んで、ぺこりと頭を下げた。

「あともう二人、僕らの友達が来ることになってるんだ。二人ともカッコいいから、きっと杏奈嬢も気に入ると思うよ。それまで今いるメンバーで何か楽しいことして待ってようよ」

 無邪気な笑みを浮かべる花菱に対し、杏奈は面白くなさそうな顔をしてそっぽを向く。

「お嬢さん、自分の思い通りに行かなくてムシャクシャする気持ちもわかりますが、その態はあまり感心しませんね」

 リカちゃんの姪ということもあってか、桜井までもが杏奈に気を使って、優しく、静かに語りかける。が、杏奈には桜井の優しさが伝わらなかったらしい。

 息をのみ、体をこわばらせ、両手を胸の前で握り、今にも泣き出しそうな顔をする杏奈は、明らかに桜井を怖がっている。

「……あの、ですね、俺は別に怒ったわけじゃなくて、お嬢さんの態度はいかがなものかなーと思っただけで、」

 桜井も杏奈が怯えているのに気づき、しどろもどろになりながら、言い訳しようとしているが、杏奈の表情はますます恐怖の色に染まっていくばかりだ。

「はいはい、杏奈嬢。こんな時代遅れのヤンキーの言うことなんて、真面目に聞かないでください。時間の無駄ですから」

 桜井を押し退けて、レオが杏奈の前に躍り出る。

 桜井の恐怖からようやく解放された杏奈は安堵の息をついた。一方、レオに押し退けられ強制的に撤退させられた桜井は、肩を落として、深いため息をついている。

 桜井、いい奴なのにな。

「さて、杏奈嬢。これからどうします? 何かして遊んでいましょうか?」

「知らないわよっ! そーゆーのを考えるのもあなた方の仕事じゃなくってっ!? いちいちあたしに聞かないで!」

 桜井に怯えるという失態(?)を犯してしまった照れ隠しか、杏奈はヒステリックに言い放った。

「それもそうですね。ではまた、少々お待ちください」

 レオはあくまで紳士的に応対する。内心ほくそ笑んでんじゃないのかな。

 レオに手招きされ、俺らは再び桜並木の下へ。作戦会議をするように。円陣を組む。

「これから、電車ごっこをするよ」

「は?」

「ワケわかんねーし。なんでよりによって電車ごっこなんだよ」

「レオ、どうした? 暑さで頭がやられたのか?」

「懐かしくていいんじゃないかな」

 全員無言で花菱を見つめる。みんなの注目を浴び、花菱は「ん?」と首を傾げながら微笑んだ。

「じゃあ、決まり。さっそく準備に取りかかろう」

「ちょっと待て!」

「だからっ何で電車ごっこなんだよっ!?」

「花菱しか賛成してないのに、おかしいだろ?」

「なに言っても無駄だと思うけどなー」

 また全員無言で花菱を見る。花菱はニコニコ楽しそうに笑いながら、

「レオはとぉーっても頑固で、一度言い出したら聞かないからね。反対しても無駄だよ」

「さすが花菱。ここで僕の意見を突っぱねたら、後でどんなことが待っているか、ちゃんとわかっているんだね」

 レオは目を細め、口元を歪め、妖しく笑う。夏なのに、背筋がぞくぞくっと寒くなった。気がした。

「さぁみんな、杏奈嬢を素敵な電車の旅に連れていってあげようじゃないか!」

 本気で、帰りたい。
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