3年D組みんな仲良し

□杏奈嬢と七人の無礼者
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「それがそうもいかないんですよ」

 いつのまにか、後ろにレオとヒナタが来ていた。

 レオは杏奈の前に恭しく跪き、とびきりの笑顔を作った。

「はじめまして。早乙女先生からの命により、あなたのお相手をするために参りました倉本 礼央と申します」

 レオが差し出した手を、杏奈は自然に握る。てっきり嫌がるかと思ったのに。

「ご苦労様。梨華のメールに書いてあったわ。学園一の美少年とその仲間たちを派遣したから、お姫様にでもなった気分で遊んでいきなって。美少年とはあなたのことだったのね」

「お褒めに与り光栄です」

 レオは愛くるしい笑顔を浮かべる。

「では、さっそく僕らと一緒に、楽しく元気に遊びましょう」

「悪いけど、あたし、あなたみたいに自分の顔の良さ自認してるナルシストタイプは好きじゃないの」

 レオの手を振り払い、杏奈はばっさりと言い放った。

「おや、これは手厳しい」

 貶されたにも関わらず、レオは特に気分を害した様子もなく笑っている。腹の中はどうかわからないけど、さすが演劇部副部長と言ったところか。

「なら、こっちのヒナタなんてどうです?」

 後ろに控えていたヒナタを押しだし、勧めるも、杏奈はヒナタを一瞥し、「あなた、まだいらしたの?」と呆れたような声を出した。

「そう、あなたも梨華に派遣された生徒の一人だったのね。でも、あたし、あなたみたいな男の子なんだか女の子なんだかはっきりしない上に背の低い人は嫌いなのよ。ごめんなさい」

 杏奈に飛びかかろうとしたヒナタの肩を、自分でもびっくりなくらいに素早く掴んだ。

「ヒナタ、小学生の言うことだから」

「そっちの。真田 海生」

「はいっ!」

 突然フルネームで呼ばれ、思わず上擦った声で返事をしてしまった。

「さっきから思っていたのだけど、あなた、はっきり言って、見てて暑苦しいわ。その身長、中学生にしては大きすぎだし、夏向きじゃないわね。不都合がないなら、早急にあたしの前から消えてくださらないかしら?」

 ヒナタが手を伸ばし、びっくりするくらい優しく俺の背中をたたいた。

「海生、小学生の言うことだから」

「うんーー」

 でも、傷ついた。

「わかったでしょう? あなた方じゃ役不足なのよ。あたしは一人で構わないから、さっさとお帰りになって」

 俺だって、出来ることなら、杏奈なんかほっといて、さっさと帰りたいよ。でも、そんなこと、レオが許さない。

「いいえ、そういうわけには参りません。これは僕らの使命なんですから」

 僕らの、じゃなくて、おまえ一人の使命だろ! 何だって俺らを巻き込むんだよ! てか、アイスが食いたきゃ自分で買えばいいじゃん! 何だってアイス一個のためにそんな頑張る必要があるんだよ! て言ってやりたいけど、言ったら後で何されるかわからないから、心の中でだけ叫ぶ。

「しかし、困りましたね。どうすれば杏奈嬢は僕らと一緒に遊んでくださるのでしょう?」

 レオは顎に手を当て、真剣に考え込んでいる。たかだかアイス一個のため、本当によくやるよな。

「なら、こういうのはどう?」

 年不相応な、妖しげな笑みを浮かべ、杏奈が提案をした。

「梨華はあたしにお姫様にでもなった気分で遊んでいきなとメールを送ってきたの。でも、あなた方の中にあたしをお姫様気分にさせてくれる人、あたしの王子様にふさわしい存在がいないのよ。だから、あなた方は、あたしの王子様役にふさわしい男性を連れてくるの。あたしが気に入ったらその方を交えてみんなで遊びましょう」

 「いかがかしら?」と杏奈は言うが、俺には、さっぱり意味が分からない。

「何で俺らがテメーみてーなクソガキのために、そんな質面倒なことしなきゃいけねーんだよっ」

 吐き捨てるように言うヒナタに、杏奈はムッとした調子で、

「だって、理由はよくわからないけど、あなた方はどうしてもあたしと一緒に遊びたいのでしょう? だったらそのくらいのことはして頂かなくちゃ。好きでもない人間との遊びに付き合わされるあたしの身にもなってご覧なさいな」

 それはお互い様だから。それに、どーしても杏奈と遊びたいのはレオだけで、俺とヒナタは早く帰りたくてしょうがないんだから。

「いい考えですよ、杏奈嬢」

 黙考していたレオが、杏奈の提案に手を打った。

「それでは杏奈嬢の相手役にふさわしい男を連れて参ります。しばしお待ちください」

「早くしてね。あたし待たされるの嫌いだから」

 なんて生意気な。

 レオは俺とヒナタの手をとって、桜並木まで引っ張っていった。

「桜井、花菱、日村、三嶋を呼び出して。大至急」

 だから何で自分で電話しないの? という文句は、飲み込んで。

「おまえ、まさか本気であのクソ生意気なガキの言うこと聞いてやるつもりじゃねーよな?」

 怪訝な顔をするヒナタに、レオは笑顔で答える。

「そのつもりだよ」

「何でだよ!」

「だって、面白いじゃないか。強気で高飛車で高慢なあの子が、好みの男の前で、どんな態度にでるのか見てみたいんだよ、僕は」

「でもさ、レオですら駄目だったんだから、今更みんなに声かけても無駄じゃないか?」

 なんて言ったら桜井たちに失礼かもしれないけどさ、レオの顔がずば抜けていいのは、紛れもない事実だし。

「人間は顔だけじゃないよ。とにかく、10秒以内に電話して。履歴残ってなかったら、ものさしでひっぱたくから、そのつもりで」

 恐ろしい言葉を残し、レオは杏奈の元へ戻ってしまった。

 顔を見合わせると、ヒナタの目は「諦めようぜ」と言っていた。

 拒否権がないのはわかってるんだから、無駄な抵抗はするべきじゃないよな。

 俺とヒナタは、しぶしぶ携帯を取り出した。
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