3年D組みんな仲良し
□夏の想い出
4ページ/7ページ
放心状態の俺の手を引いて、日村は街灯の近くのベンチまでつれていった。
「何か飲む? 買ってこようか?」
「いい、いい。ここにいて」
変な意味でとらえられるかもしれないけど、あんな怖い思いした後に、こんなとこに一人で残されたくない。
離れかけた手を強く握ったら、日村はそのままベンチに座ってくれた。
日村としてはあんまいい気分じゃないかもしれないけど、俺は手を離すのが怖かった。本当にもう一人になりたくなかった。
「指先冷たくなってるな」
「緊張してたし、怖かったから」
心臓の音はだいぶ落ち着いたけど、さっきまでドンドコいってたせいか、なんとなく胸のあたりが痛いような苦しいような感じがする。
「俺のせいだな」
「……てわけでもないけど」
「怖がらせてごめんな」
「いいよ、気にするなよ」
申し訳なさそうな顔をする日村が気の毒になって言った。
「だって日村、別に、俺を怖がらせようと思ってあそこにいたわけじゃないだろ?」
日村は答えず目を伏せる。その反応の意味するところは?
「レオには、あそこで待つように言われたんだ」
「何であんなとこで?」
「誰か来たら、脅かしてやってって言われて」
「……日村はなんて?」
「面白そうだから、いいよ、って」
胸中複雑だった。命じたのはレオだけど、それにノった日村もひどい。
「レオも俺も、街灯の下は明るいし、すぐに気づかれると思ってたんだ。だからギリギリまで植え込みの中に隠れて、近付いたら後ろから声をかける。それ以外に特別なことはしなくていいからって。運が良ければ誰か驚くかもねって話しして」
それで運良く俺が驚いたってわけか。俺にとっては不運でしかないけどな。
「海生があんな恐がるとは思ってなくて……本当にごめん」
「……いいよ。肝試しを盛り上げようとしたわけで、悪気があってやったわけじゃないだろうし」
レオはどうだかわかんないけど。
「日村は家の用事で今日は来ないよって花菱が言ってたけど、あれもレオが仕組んだ嘘だったのか?」
「嘘ってわけでもないんだ。本当は来るつもりなかったから」
「でも、来たんだな」
「迷ったんだけど、やっぱり行こうって思って。花菱には行かないって言っちゃったから、レオに連絡して、じゃあそれならってことで、あそこにいたんだ」
「なるほどね」
会話が途切れて、思考をめぐらす。俺が出発してからどのくらい時間がたったんだろう。日村はどのくらいの時間、あそこで一人で待っていたんだろう。
「日村は怖くなかったのか」
「怖くはなかったよ。夜、ていうか、夜の雰囲気、好きだから」
確かに日村は太陽の光サンサンの昼間より、月明かりの優しいしっとりとした夜の方が似合うな。
「海生は夜は嫌い?」
「嫌いじゃないけど、特別好きでもないかな。昼間の方が安心感はある」
「海生は太陽が似合うよな」
「そう?」
太陽が似合うって、明るくて元気ってことなのか、暑苦しいってことなのか。
「あと、海」
「それは名前のせいじゃないか?」
「そうかも」
「そうだよ」
くだらない話をして、少し笑って、日村がおもむろに、「これから、どうする?」と訊いてきた。
「戻る? 進む?」
「うん、」
桜井には無理するなって言われたけど、今は日村がいるし、もうあんな怖い思いするようなことは起きないと思うし。
「進むよ。これで戻ったらヒナタやレオに馬鹿にされる」
「じゃあ、行こうか」
二人一緒に立ち上がる。日村は繋がれたままの手を見て、俺の顔を見た。
言いたいことはわかったけど、無視して歩きだした。