3年D組みんな仲良し

□夏の想い出
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 放心状態の俺の手を引いて、日村は街灯の近くのベンチまでつれていった。

「何か飲む? 買ってこようか?」

「いい、いい。ここにいて」

 変な意味でとらえられるかもしれないけど、あんな怖い思いした後に、こんなとこに一人で残されたくない。

 離れかけた手を強く握ったら、日村はそのままベンチに座ってくれた。

 日村としてはあんまいい気分じゃないかもしれないけど、俺は手を離すのが怖かった。本当にもう一人になりたくなかった。

「指先冷たくなってるな」

「緊張してたし、怖かったから」

 心臓の音はだいぶ落ち着いたけど、さっきまでドンドコいってたせいか、なんとなく胸のあたりが痛いような苦しいような感じがする。

「俺のせいだな」

「……てわけでもないけど」

「怖がらせてごめんな」

「いいよ、気にするなよ」

 申し訳なさそうな顔をする日村が気の毒になって言った。

「だって日村、別に、俺を怖がらせようと思ってあそこにいたわけじゃないだろ?」

 日村は答えず目を伏せる。その反応の意味するところは?

「レオには、あそこで待つように言われたんだ」

「何であんなとこで?」

「誰か来たら、脅かしてやってって言われて」

「……日村はなんて?」

「面白そうだから、いいよ、って」

 胸中複雑だった。命じたのはレオだけど、それにノった日村もひどい。

「レオも俺も、街灯の下は明るいし、すぐに気づかれると思ってたんだ。だからギリギリまで植え込みの中に隠れて、近付いたら後ろから声をかける。それ以外に特別なことはしなくていいからって。運が良ければ誰か驚くかもねって話しして」

 それで運良く俺が驚いたってわけか。俺にとっては不運でしかないけどな。

「海生があんな恐がるとは思ってなくて……本当にごめん」

「……いいよ。肝試しを盛り上げようとしたわけで、悪気があってやったわけじゃないだろうし」

 レオはどうだかわかんないけど。

「日村は家の用事で今日は来ないよって花菱が言ってたけど、あれもレオが仕組んだ嘘だったのか?」

「嘘ってわけでもないんだ。本当は来るつもりなかったから」

「でも、来たんだな」

「迷ったんだけど、やっぱり行こうって思って。花菱には行かないって言っちゃったから、レオに連絡して、じゃあそれならってことで、あそこにいたんだ」

「なるほどね」

 会話が途切れて、思考をめぐらす。俺が出発してからどのくらい時間がたったんだろう。日村はどのくらいの時間、あそこで一人で待っていたんだろう。

「日村は怖くなかったのか」

「怖くはなかったよ。夜、ていうか、夜の雰囲気、好きだから」

 確かに日村は太陽の光サンサンの昼間より、月明かりの優しいしっとりとした夜の方が似合うな。

「海生は夜は嫌い?」

「嫌いじゃないけど、特別好きでもないかな。昼間の方が安心感はある」

「海生は太陽が似合うよな」

「そう?」

 太陽が似合うって、明るくて元気ってことなのか、暑苦しいってことなのか。

「あと、海」

「それは名前のせいじゃないか?」

「そうかも」

「そうだよ」

 くだらない話をして、少し笑って、日村がおもむろに、「これから、どうする?」と訊いてきた。

「戻る? 進む?」

「うん、」

 桜井には無理するなって言われたけど、今は日村がいるし、もうあんな怖い思いするようなことは起きないと思うし。

「進むよ。これで戻ったらヒナタやレオに馬鹿にされる」

「じゃあ、行こうか」

 二人一緒に立ち上がる。日村は繋がれたままの手を見て、俺の顔を見た。

 言いたいことはわかったけど、無視して歩きだした。
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