3年D組みんな仲良し
□三日月祭まで勝負です。
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「ハルちゃん?」
「そうだよ」
「本当にハルちゃん?」
「俺の偽者がいんのかよ?」
「いや、だって、」
俺の知ってるハルちゃんは、こんな感じじゃなかった。あの頃はスカートしか履かなかったのに今はジーンズだし、口調だって『俺』とか言って、男みたいだし。
何より残念なのは、俺が好きだった黒くて長くて綺麗な髪がさっぱりしたショートヘアーになっていること。あの頃のハルちゃんは、こう……ふわふわした感じで、いつだって女の子らしく、可愛らしかったのに。
「ハルちゃん、すごい変わったね。全然わかんなかったよ」
「そっかぁ? てかそれ言うなら、おまえのが変わっただろ。でかくなったなぁ。身長いくつ?」
「え、いくつだろ? 4月に測った時はたしか184とかだったと思う」
「184! お前まだ中学生だろ?何食ったらそんなでかくなんだか」
「さあ?」
普通に食って、寝て、気付いたらこんな大きさになってた。
「昔の海生は泣き虫、弱虫、クモだって触れなくて、いつも俺の後ろついてまわってたのに。そいつがこんな男前になるなんてな」
背が高くなっても泣き虫弱虫は昔と変わらない。クモだって今だに触れない。格好わるいから言わないけどさ。
階段を上がり、ハルちゃんの隣り、ひとり分開けて、座り込む。
「えっと、ハルちゃん、一人で来たの?」
「そうだよ」
「何で?」
「何で一人で来たの、てことか?」
「違う。9年も会ってなかったのに、突然来るからどうしたのかと思って」
昔はお盆やらクリスマスやらお正月やらイベントはもちろん、その他にも諸々の用事でけっこう頻繁に家に来てたのに、あの時以来まったく連絡よこさなくなっちゃって。
「そりゃあ、お前との約束を守るためにさ」
「約束?」
約束ってなんだっけ? 俺、何かハルちゃんと約束したっけ?
「何だよ。最後に会った日に約束したじゃん。まぁ覚え得なくて当然か、9年前の話だし、海生も小さかったし」
「それにそれだけが理由ってわけでもないし」とぶつぶつ言いながらハルちゃんは煙草を足もとのコーラの缶の中に押し込んだ。
「俺、来ない方が良かったかな」
「そんなことないよ!」
俺がハルちゃんとした約束を忘れたせいでハルちゃんがショックを受けたのかと思って慌てて否定した。
「俺、一人っ子だし、友達少なかったし、あの頃ハルちゃんが遊んでくれて本当に嬉しかったんだよ。俺にとってハルちゃんは優しいお姉さんであり、かけがえのない友達でもあったんだ。それなのに会えなくなってすごく寂しかったんだよ」
もちろんついさっきまでハルちゃんのこと忘れてたけど、あの頃本当に寂しかったのは嘘じゃない。
「海生だけだよ。そう言ってくれるの」
ハルちゃんは微笑み「ありがとな」と言った。
「俺と久しぶりに会えて、嬉しいか?」
「うん、嬉しいよ」
出来たらあの頃のまんまのハルちゃんに会いたかったけど。
「じゃあ、俺がしばらくここにいるって言ったら海生は嬉しい?」
「え?」
「俺、しばらくここに置いてもらうことになったから」
「何で?」
「家でてきたから」
「家出てきた?」
ハルちゃんは新しい煙草に火をつけて言った。
「家出してきたんだよ。勢いで飛び出してきたんだけどさぁ、行くとこないからまいっちゃって」
「ハハハ」と笑いながら話すハルちゃんは、たいしてまいっているように見えない。と、言うかこれって笑うような話じゃない気がする。
「何で!?」
俺、バカの一つ覚えみたいに、さっきから「何で」ばっか繰り返してる。だけど仕方ない、ハルちゃんの言うこと突拍子のないことばっかりなんだから。
「何で家出なんかしたの!?」
「そーゆーお年頃だから」
「ハルちゃんね、俺は真面目に聞いてんだから、」
その時玄関のドアが開き、大きな買い物袋を手に下げた母ちゃんが入ってきた。
「あら、海生。帰ってたの。そんなところに座り込んで何してるの?」
「想い出話に花を咲かせてたんですよ」
俺の後ろからハルちゃんが顔を出して言った。
「そう。9年ぶりだものね。ハルちゃんが家に来るの……海生、感動のあまりハルちゃんに抱きついたり小さい子みたいに泣きわめいたりしなかった?」
「するわけないから」
「何でもいいから降りてらっしゃい。ケーキ買ってきたから一緒に食べましょ」
母ちゃんが奥に引っ込むのを見届けてから、ハルちゃんに訊ねる。
「母ちゃんは、ハルちゃんが家に来てるの知ってるんだね」
「あたりまえだろ。おばさんがいなかったら、誰が俺をこの家に入れるんだよ」
そりゃそうだ。
「母ちゃんは、ハルちゃんが家を出てきた理由知ってるの?」
「知ってるよ」
「何で?」
「俺が言ったから」
「そうじゃなくて、『何で俺には教えてくれないの?』の何で」
「海生にも言ったじゃん」
ハルちゃんはニヤリと不敵そうに笑い、
「そーゆーお年頃だから」
と言った。
何だかなー。