3年D組みんな仲良し
□三日月祭まで勝負です。
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メールには大至急とあったから、学校から家まで早歩きで帰った。本当は走った方が早いんだけど、走るのはあんまり得意じゃないから。それでも普通に歩いて帰るよりは早く着く。
いつもなら三十分かけて帰る道のりを今日は二十分で帰った。
「母ちゃん、ただいま」
声をかけても返事はなかった。もう一度大きな声で「ただいま」を言ってもやっぱり返事はない。
大至急って言ったから作業切り上げて帰ってきたのに、母ちゃんはいったい何処にいるんだ。
「おばさんならちょっと前に買い物に出かけたよ」
突然聞きなれぬ声がして立ちすくむ。見れば階段の一番上に、見知らぬ女が腰かけていた。
相手は俺がいることもおかまいなしに、ポケットからタバコを取り出した。口に一本くわえ、慣れた手付きで火をつけて、めんどくさそうに煙を吐き出し、極めつけに大きな欠伸を一つ。
相手のあまりのマイペースぶりに思わず脱力した。何か緊張してる俺がアホみたいだ。
階段の下から相手をまじまじと見つめる。さらさらのショートヘアーにヨレヨレパーカー、膝の部分が擦りきれたジーンズ。壁に寄りかかり、足を投げ出して座る姿は気だるげで、見た目だけだと俺よりも年下に見える。あ、でも年下ってことはないか、普通にタバコ吸ってるしな。
「ここは禁煙か?」
話しかけられてまたぎょっとした。一瞬、それが誰に向けられた言葉なのか解らず、後ろを振り返る。
「お前に言ってんだよ」
階段の上で呆れたように相手が言う。
俺以外に誰もいないんだから当たり前だよな、なにやってんだ俺は。
「別に禁煙ではないと思うけど」
「そうか」
それじゃ遠慮なくといった感じに、また盛大に煙を吐き出した。
女が俺に目を向ける。
「そんなとこ立ってないで、自分の家なんだから上がってくれば?」
「うん」
それはそうなんだけど。俺の家なのになんで知らない女が勝手に入ってるんだろ。
「何?」
じっと見つめていたら、女が俺に問いかけてきた。
「あの……どちら様ですか?」
俺が言うと女はおもしろそうな顔をして俺を見た。
「やっぱりわからないか」
やっぱり? やっぱりってどういう意味?
「わかんない、です」
「そう。最後にあったの九年も前だからな。覚えてなくて当然か。俺は小春。おまえのイトコ」
今、この人『俺』って。女の子なのに『俺』って……いやいや、そんなことはどうでもよくて、
「小春?」
ふっと俺が小さかった頃の記憶が一部よみがえった。白いワンピースを来た長い髪の女の子が静かに微笑む姿。「女の子をやめる」と宣言したときの、凛とした態度。
「もしかしてハルちゃん?」
「もしかしなくてもハルちゃん」
なぞの女の正体は俺のイトコのハルちゃんだった。目が合うとハルちゃんは、何だかおかしそうに笑った。