桐青★島準

□そんなきみが愛しくて
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「…慎吾さん、酒くさい」

部の飲み会で午前様のオレに向かって準太が発した第一声。
明らかに不機嫌ですと言わんばかりのそれに、酔ってたせいかちょっと絡みたい気分になった。


「んー?ほっとかれて寂しかったのかー?」
「…誰がですか」


眉間にシワを寄せた準太にちゅ、と唇を重ねると、瞬間赤くなった準太に、べちん!と頭を叩かれた。

痛いという言葉が出る前に、見るときつく結ばれた唇。やばいかな、これちょっとマジで怒ってる気がする。だけど今まで飲んで帰ったってこんな不機嫌だったことなんてねぇし。

だけど何でって聞くと完全にコイツ怒るよな、そんなこともわからないんですか、って。

アルコールでうまくまわらない頭をフル回転させてみても読めない準太の思考回路に、諦めて恐る恐る聞いた。


「…何でそんな怒ってんだよ」
「…そんなこともわかんないんすか?」


準太は予想通りの言葉を吐いてオレをにらむと、もう寝ます、とくるり背を向け、自室のドアをバタンと派手に音をたてて閉めた。そして直ぐさまカチリとかけられる鍵の音。
準太、と呼びかけても返事はない。頑なな準太はこうなると梃子でも動かないことは高校からの付き合いで身をもってよくわかっていた。


「………はぁ」


冷蔵庫から買い置きの缶ビールを取り出すとタブを開け、一口。
そして準太の部屋のドアにもたれかかる。

自室に篭った準太は寝ていない、そう確信していた。布団に潜っても、寝れずに起きている筈だ。

一緒に暮らし始めて、少しずつ準太の知らなかった部分を知ってきた。それでもまだ新しい発見や戸惑いは尽きることはなくて。


頑なで恋愛に関してそう器用でない準太。その思いを読み切れなくて、今までにも何度か準太を怒らせてしまったことがある。頑なな準太に逆切れして大喧嘩になったことも、一晩寝たら機嫌も直るだろうとほったらかして一週間以上口をきいてくれなかったこともある。それでも準太以外の相手なんて考えられなかった。


扉に背を預けたまま控えめにノック。勿論返事なんて返ってこない。扉を隔てたそのむこうに聞こえる様に、少し大きな声で話しかける。


「準太」
「……」
「準太」
「………」
「…起きてんだろ?返事しなくていいから聞けよ」
「…………」


やっぱり返事はない。でも構わずオレは続けた。


「こんなこと言ったら準太もっと怒るかもしんねえけどさ…考えたけどやっぱりオレ、何で準太が今怒ってんのか……わかんねえんだ。」
「………」
「…それそのまんまにして寝たくねえし…何でお前が怒ってんのか、何をして怒らせたのか、ちゃんと知っときたいしさ…」
「…」
「……な、ちゃんと話がしてえんだ」
「………………」


だけどそれでも返事は返ってこない。ひとつため息をついて手に持ったビールをもう一口、…その時だった。

もたれた背中、その扉が少しだけ浮いて、次いで何かが擦れる音。
扉は開かない。
だけど今準太は扉のむこう、多分オレがしてるのと同じように扉に背を預けてる、そんな気がした。


…コンコン


控え目に小さくノックすると、少し間をおいてコンコンと返される扉をノックする音。


「な、準太…開けて?」
「…やです」
「顔見たい」
「やです」
「じゃあ何で怒ってんのかだけでも教えてくんね?」
「……」


そこは黙るのかよ。
つか言いたくない理由でもあんのか?でも怒るけど理由は言わないとかなんか理不尽だぞそれは。


「言ってくんなきゃわかんねえし改善も反省もしようがねーんだけど…………はぁ…」
「…………だって慎吾さん香水クサイんですもん…」





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