桐青★島準

□きっと貴方が、オレの初恋
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「準太さー…今まで好きになったヤツっていんの?」



オレと付き合う前に、と付け足して、一つ年上の恋人は小さな欠伸をひとつ。

暖かな午後、慎吾さんの部屋。

今日は祝日、だけど部の練習は珍しく午前中だけ。そのあと軽くミーティングをして解散。

帰りにコンビニとレンタルビデオ屋に寄って、オレは慎吾さんちに来ていた。

慎吾さんちのおばさんが作っといてくれたカレーをご馳走になって、コンビニで買ったポテチ広げて、借りたDVDをセットして。

準備万端二人でベッドを背もたれにしてしばし見ていたのだが、午前中の練習で疲れた体に加えどうも話題ほどの作品ではないらしいそれに、どちらともなく欠伸を連発。

そんな最中発せられたその問いに、オレは小首を傾げた。


「…なんすか、いきなり」
「いいじゃん教えろよ。あ、保育園の先生とかそーいうのナシな。恋愛の対象として」


指についた塩っぽさを舐めとりながら言う慎吾さんには、既にDVDなんてもうどうでもよくなっているみたいで、もたれていたベッドに肘をついてこっちに向き直る。


何も言わず、広げられたポテチの脇に置いたペットボトルに手をのばし、ゆっくりと一口流し込む。オレにとってもどうでもよくなりつつあるDVDから目を離しちらり見やるとそのままの体勢でじっとオレを見ている。

この手の話題になると、この人はそう簡単に引き下がってはくれないことを、オレはよく知っていた。

ふう、と諦めの溜め息をつくと、顔だけ慎吾さんの方へ向ける。


「…彼女なら、いましたけど」


中学3年、部活引退してからと高校1年の秋。どっちも相手から告白されて何の気無しに付き合った。
結局生活の中心は野球ばかりで夢中になれず、すぐに別れてしまったので、あまり想い出とかそんなのはあんまり記憶にない。

記憶にあるのは、高校1年のときの彼女と、…初めてキスしたことくらいだ。


「その彼女のこと、好きだった?」


興味深そうに食いついてくる慎吾さん。爛々と目を輝かせて話の続きを急かされて、オレはふたつ目の溜め息をこぼす。


「…よくわかりません」


実際、好きか嫌いかと言われれば好きだったのだろう。一緒に居る時間はそれなりに楽しかった。

だけど心の底から彼女を好きだったのかと問われれば疑問がのこる。何時だって野球優先だった、それが事実だ。


「じゃあなんでキスしたの」
「…何となく雰囲気、すかね」
「ふーん…じゃあオレとは?」
「…え?」


人の悪い笑みを浮かべて、オレに顔を寄せる慎吾さん。思わず後ずさろうとするオレの肩をがっちりホールドして、逃がさないようにして、それこそ鼻先が触れるくらいまで距離を詰められる。


「オレのことはちゃんと好きなワケ?」
「…言わないとわかんないんすか?」
「うん、オレ頭悪いからねー」
「嘘ばっかり。言わなくてもわかってるでしょうが」


口元が明らかにわらってる。オレの反応見て楽しんでる。

そうわかってるのに、かあっと頬に赤みを帯びていくのをとめられない。


「準太、顔赤い」
「赤くない」
「照れなくてもいーのに」
「照れてない!」
「準太可愛い」
「…っ、もう!」





ねえ、慎吾さん。

言われなくても。
言わなくても。
オレは貴方が好きなんだって、自分で自覚してるんだ。
惰性とか、雰囲気とか、そういうんじゃなくて、オレは貴方に惹かれてて、もう貴方しか見えなくなってるんだ。

キスだって、それ以上のことだって、貴方としかしたくない。
こんな気持ちになったのは、慎吾さん、貴方が初めてなんだって。

気づいてるんでしょ?
貴方がオレの、初めてちゃんと好きになった人だって。
分かってて言わせたいんでしょ?


だから言ってやらない。
貴方がオレもだよって言うまでは。




「もうDVD消そうぜ」
「せっかく借りたのに見ないんすか?」
「準太だって見てないじゃん。それよりさ…」


…もっとイイコトしよーぜ?


悪戯に笑って、耳元で囁くようにそう言って。

そっと重ねられた唇は何時だって優しい。



オレも本当はわかってるんすよ。
オレが貴方を好きなのと同じように、慎吾さん、貴方がオレのことちゃんと好きで大事に思ってくれてること。


「オレのこと、好き?」


優しく聞いてくるその声に、ちょっとだけ悔しいけど、オレは小さく頷く。満足げに笑って慎吾さんは、オレもだよって言ってくれた。






『きっと貴方が、オレの初恋』




fin.












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