桐青★島準
□月夜にふたり
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「あ、米ねえ」
慎吾さんの抜けた声に振り向くと、米びつを覗き込んで口をあけたなんともマヌケな顔。
「あ…今朝炊いたので最後だったっす」
「お前ね…そういうのは早く言えよ」
オレが大学に入ってひと月。
表向きは同居という名の同棲生活は、なかなか楽しいけれど大変で、こと飯を作ることに関してオレは今の所全くの役立たずだった。
とりあえず米を炊くことは任された。最初は硬かったりべちょべちょだったり…それさえ上手く出来なかったけど、最近は上手く炊けるようになった。まあ炊いてんのは炊飯器でオレは研いで水入れてスイッチ入れるだけなんだけど。
違う大学に通う慎吾さん。
慎吾さんは大学に入ってからも野球を続けてて。あ、勿論オレも。
互いに練習終わって家に帰る時間は遅いから、買い物はたいてい休みの日か慎吾さんがいつの間にかしてくれてる。
…で、今朝米を炊いたのが最後だったのを、うっかり慎吾さんに伝えるのを忘れてたんだ。
「う…すんません」
「しゃーない。今から行くか」
「え、コンビニすか?」
「いや、さくらやマート」
「さくらや開いてるんすか?」
「あそこ夜11時まで開いてんだ」
スウェットに上着を羽織ったラフな格好、閉店時間間近のさくらやマートは人も殆ど居なくて。
米の他に少なくなってた醤油やら味噌やらも買い込んで店をあとにした。
「慎吾さん重くないすか?」
「んー、平気」
10キロの米は慎吾さんが抱えて、買い物袋をオレが下げて、二人並んで家路を辿る。
高校時代、先に卒業した慎吾さんと一緒に住みたいとか思ったりしたけど、実際こんな風に生活してることがまだ夢みたいだ。一緒に暮らすことで、新しい慎吾さんを発見する度に、なんかちょっと嬉しくなる。
「準太ぁ、大学だいぶ慣れた?」
「んー、まだもうちょっとすかね。単位とか時間割りとか高校と違うからまだよくわかんなくて」
「あー、オレも最初そうだったなー」
「あ、でも友達は出来たっす」
「いいオトコいても浮気すんなよ?」
「アハハ、しませんって」
笑って見上げた空には星は見えないけど、綺麗に光る丸い月。
普段あんまり見ることないから、その綺麗な月に何となく目を奪われた。
どのくらい、見ていただろう。
視線を感じて慎吾さんを見ると、慎吾さんはじっとオレを見ていて。その眼差しに今更だけどドキッとさせられる。
無言のまま、買い物袋を持ってない方の指に慎吾さんの指が絡められた。
そして柔らかく握られる。
「…手、繋いで帰るか」
「え…」
「誰も見てねえよ」
ゆっくりと歩き始める慎吾さんに引かれるように、慌てて横に並んで歩き始める。
月明かりに照らされて出来た、手を繋いだオレと慎吾さんの影。
その後を追うように、ゆっくりとオレと慎吾さんの部屋に帰る道を楽しむ。
4月の夜は、まだ少し肌寒くて、繋いだ指先が温かくてほんのり幸せ気分になった。
Fin.