桐青★島準

□トイレより愛をこめて!
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うちが洋式便所でよかったスね、って、ガッチリ固定されたオレの足首を見ながら準太が言う。

練習中、クロスプレーを避けようとして足を痛めて、先輩に送ってもらって帰宅した。

さっきまで先輩は準太の作ったカレーを食い、喋りたい放題喋って帰っていった。

準太のことを気に入ったのか、また来るとか言ってたけど、そうそうオレと準太の愛の巣に踏み込まれたんじゃかなわない。その手の話題になったらのらりくらりかわすつもりだ。…先輩は手癖が悪いから、準太に手を出しかねないし。

練習中に痛めた足は、時間が経つにつれてじくじくと痛みと熱を伴って腫れ、まるでオレ自身のニブさと情けなさを責め立てるように疼いている。

トイレに行くのに松葉杖に手をのばそうとしたらその手は準太に掴まれて。
そのまま自分の肩に回させるとオレの腰を支えて立ち上がらせる。
高校時代よりもしっかりと筋肉がついて引き締まった準太の身体は、大学一年にしてもエースの資質を十分に感じさせた。


「歩けますか?」
「ん」


体重を預けてもよろけることもなく、オレを支えてトイレまでゆっくりと進む準太。
ようやくたどり着いた便座に腰を下ろす。座って小便することなんて滅多にねえからビミョーに変な気分だ。
と、そこで痛いほどに注がれる視線に気付いた。


「準太」
「はい?」
「…扉、閉めてくんねえ?」
「………見られんの、嫌です?」


人の悪い笑みを浮かべて、オレを眺める準太。てか、そんな見られたら出るもんも出ねえっての。


「あたりめーだろ」
「んー、しにくかったら手伝ってあげようかと」


ふふ、と笑う準太にいいから閉めろっていうと、はーい、ってあっさり引き下がった。

出すものをだしてしまって、パンツを上げる為に便座から腰を上げるのも一苦労で、片足の自由がきかないのがこんなしんどいものかと、自然に溜息が出た。

来週末には大学の秋季リーグに向けた、新しいチームでの練習試合が組まれてる。それに間に合うかどうかもこの感じじゃ微妙だ。
それに、その組まれた練習試合は………。

トイレの内側から、外にいる準太に向けてノックをすると、そこに居たらしい準太はすぐに扉を開けて、オレの身体を支えた。
ゆっくりとソファーまで連れていくと、足に負担をかけさせないように腰掛けさせ、片足を投げ出す形にクッションで固定された。


「慎吾さん」
「…ん?」
「この足じゃ、次の練習試合はちょっと無理っぽいっすね」
「んー…どうかな。…もし出れなかったら、ごめんな」
「んな謝んないでくださいよ、慎吾さんが悪いわけじゃないんすから」


来週末の練習試合の相手は準太んとこの大学で、四年が抜けた新チームで初めての試合。
準太は先発で投げる予定だと聞かされていた。
四年がいた夏の大会では中継ぎやリリーフでの登板ばかりで準太と対峙する機会がなかった。
今回練習試合とはいえ初めての準太との勝負を……オレも準太も楽しみにしていたのは事実で。


「ゴメン」
「だから謝んないでくださいって。そのかわり秋季リーグまでにはちゃんと完治させてくださいよ?」
「ん」
「約束っすよ」


黒目がちの瞳を細めて。ふ、と準太が笑う。オレの一等好きな顔で。
慎吾さん、と寄せられた唇にちゅっと音をたてて口づける。シャツを引いて、一度離れかけたそれを追いかけて、もう一度、今度は深く口づけた。
強引に捩込んだ舌を絡めて吸えば、応えるように準太の腕に力が込められる。
互いの唾液まで分け合うように貪ると、それだけで緩く勃ちあがろうとする自分の雄に、内心ちょっとだけ苦笑いする。だけどそれが準太限定であることが何となく幸せに感じた。


「…慎吾さん…当たってるんすけど」
「お前のだって。本能には逆らえねーよな」
「…………じゃ、今日はオレが全部したげますよ」
「へ…マジで?」
「マジっす。慎吾さんマグロでいいっすよ」
「ふーん、楽しみにしてっから」
「ヒーヒー言わせますからねー」


軽く開いた唇から濡れた舌をわざと見せて、楽しげに挑発してくる準太。

こんな仕種をしてみせるくせに、ちょっとしたことで頬を赤らめてみたり、そうかと思えば惜しみ無く痴態を晒してみたり。
本当に準太は可愛くて、目が離せない。

ご機嫌で食事の片付けを始めた準太の背中を眺めながら、今晩はどうやって準太を泣かせてやろうと思うと、ひとりでに口元が緩んだ。


それを準太に見られて『慎吾さんのスケベー』って言われたのは、また後のハナシ☆


Fin.

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