□浴室で吐血
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「ゲホッ・・・ゲホッ・・・」

ぴちゃっ、ぴちゃっ・・・

浴室に響くは咳込んでいる声と少量の液体の落下音。


「ガフッ・・・はぁ・・・・」

ようやく咳は治まり、バスタブの縁に寄り掛かる。
掌を見つめた。付着しているのは自身の血。
それを水に流し、ゆっくりと湯舟に浸かる。


「いつまでもそこに居ないで入ってきたらいいじゃあないか、ユーリ?」


扉越しにいる男、ユーリを睨む。


「ふふ・・・気配を消した筈なんだが、貴女はすぐに気付きますね。」


浴室の扉を開き、ワイシャツ姿のユーリが入ってきた。


「当たり前じゃあないか。君は私を何だと思っているんだ?
一応、軍の元特殊部隊だし、ゲリラ戦なんか経験済みで暗殺未遂されたんだからそのくらいわかるよ。」

ザバァッ、と音を立て立ち上がる。
異性の前で己の裸体を晒しても恥じらいはない。
だいたいの異性は女の裸体を見て喜ぶが、彼女の場合、逆の反応だが・・・


「女性の身体に傷物はいけないと言うが、貴女の傷はそれを反して芸術的で、美しい・・・」

うっとりとユーリはそれを見つめてなぞる。

ほぼ全身に銃跡、深い裂傷、背中には拷問の時の、肌の色が違くなる程傷痕が付けられている。


「そりゃあどうも。
この傷痕見て褒めるのはユーリくらいだよ。
ゲホッ、ゴホッゴホッ・・・・」


口元を押さえる。治まった筈の咳が起きる。
立ちくらみがし、ユーリの肩を掴んだ。


「まだ治っていないのですか。」

「・・・君が飲み物に変な薬入れて、喉焼いたんじゃないか。
やっと声出るようになったけど、吐血はまだ治らんよ。」


口の端に伝う血が官能的であった。
ユーリはそれを指で掬い、己の唇に塗った。



浴室に吐血



嗚呼、もっと血を吐き出して下さいね。

ユーリ、君は変わってるよ・・・

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