□春の夢
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春の陽気が京の町を包み、至る所で桜が満開を迎えた、そんな日のことである。

「よぉ、桜庭。おめェ今日は暇か?」

縁側でぼんやりと外を眺めていた鈴花は、背後から掛けられた声に驚いて振り向いた。

声の主は永倉である。

「……暇ですけど……どうかしたんですか」
「……じゃあ、一緒に来るか」
「……どこか行くんですか」
「花見の下見に行こうかと思ってんだが」
「……行きますっ」

丁度暇を持て余していたのだ。
永倉の誘いは単純に嬉しかった。

二つ返事で了解した鈴花だったが、しかし、そういうときは何かとうまくいかないものである。

今にも屯所から出て行こうとしたとき、また背後から声が掛かったのだ。

今度は島田である。

「桜庭君、ここにいたのかい。……すまないがちょっと手伝ってくれないか」

島田は永倉と鈴花の顔を見比べて申し訳なさそうに頭を掻いた。

「……新八君と出かけるところだったのかい?……じゃあ仕方ない。他を当たろうか」

そう言いながらも島田は困り顔である。
放ってはおけない雰囲気だ。
鈴花は永倉を見た。

「永倉さん、あの……」
「ああ。俺ぁ、勿論いいぜ。魁さんを手伝ってやれよ」
「……すみません、じゃあ後から必ず行きますので、待ってて下さいねっ」

永倉は返事の代わりに、にやりと笑うと、そのまま屯所から出て行った。

残された鈴花は小さく息を吐くと、島田に向かって微笑んだのである。
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