□ふたりのお正月
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「おーい、桜庭。おめェどンだけ俺を待たす気だア」

襖の向こうの永倉の焦れた声に、鈴花は少しだけ泣きそうになりながら、顔を拭った。

――化粧が……うまくいかない。

華やかな振袖を身にまとい、あとは化粧さえすれば完璧……な、はずなのだが。

その肝心の化粧がうまくいかない。

全く化粧映えしない……というより、化粧の仕方がそもそも間違っているのか、とにかくこんな顔では永倉の前に出ることはできない。

――ああ、もうっ。こんなことなら、もう少しお化粧の練習でもしておけばよかった!!

と、今さら悔いてみても後の祭りである。

――折角の永倉との初詣……とびきり女らしく変身して、永倉をびっくりさせてやりたかったのに!!

「……だあーっ、もう待てねェ!桜庭、入るぞ!!」
「……えっ!?やだ、待っ」

慌てて振り向いた鈴花と、丁度襖を開いて入ってきた永倉の目と目が合った。

「……おめェ……」

呆けたように立ち尽くす永倉の視線に耐え兼ねて、鈴花は己の顔を隠した。

「……み、見ないで下さいっ」
「……何でだ?可愛いじゃねェか」

ゆっくりと歩み寄る永倉から離れようと身をよじる鈴花の腕を捕まえた彼は、不思議そうに首を傾げてみせた。

「……なぁに、逃げてンだよ」
「……だ、だって顔がっ」
「……顔ォ?」
「……化粧が……うまくできなくて、だから……」

永倉は鈴花の顔を上げさせると、小さく笑った。くしゃり、と大きな手が鈴花の頭を撫でる。

「……ばぁーか」
「……永倉さん?」

見上げた鈴花の視線の先で永倉が照れたように頭を掻くのが見えた。

「おめェは、そのままでも十分だ」
「……永倉さん……」

瞬時に頬を紅く染めた鈴花の唇に永倉は指をなぞらせると、小さく囁いた。

「……ちっとばかし、目ェ閉じてな」


言われた通りに素直に目を閉じた鈴花の、その尋常ではなく紅い頬――。
――ほんの少し、からかってやるつもりだったのに。

胸の内に込み上げる愛しさに戸惑いながら、永倉は鈴花の唇に己のそれをそっと重ねた。

そのまま鈴花の肩を引き寄せて、そっと抱き締める。

「永倉さん……」

どこか、惚けたような響きで永倉を呼ぶ鈴花に、小さく囁いて。

「安心しな……。おめェは、今にいい女になるぜ」
「……永倉さん……」
「俺が保証する」

抱き締めた鈴花の肩が少しだけ震えた。

「……じゃあ、ずっと一緒にいて下さいね。それで、私がちゃんといい女になるか見届けてくれないと」

そう言って恥ずかしそうに微笑みながら永倉を見る鈴花の瞳が潤んでいる。

――こいつ、自分で何言ってンのか分かってンのか。

永倉は思わず苦笑を浮かべて、また鈴花の頭を撫でた。

「ああ……。おめェが望むならな」

来年も再来年も、
ずっと。
ずっと一緒に………。


〜END〜




初めて書いただけあって、偽者くさい永倉さんが出来上がりました(笑)

思ったより、ずっと甘口に仕上がりましたが、永倉さん効果……?

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