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□それでも楽園の夢をみる
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咲き乱れ、舞い散る花弁。
――この楽園は、夢……。
――なぜ夢を望むのか。
――先生と一緒にいたいから。
望美の唇から零れる言葉が、リズヴァーンの胸に色鮮やかな歓喜をもたらす。
ずっと。
ずっと、恋い焦がれていた存在に求められているという、喜び。
けれどこの感情は禁忌。分かっている。
幾度も腕の中で冷たくなってゆく彼女を見てきた。
今の望美のように、自分を慕ってくれる運命も何度となく辿って来た。
それでも、その運命の先はいつも彼女の死という形で終わるのだ。
自分の感情は封印して、ただ彼女が生きる未来のみを願うようになったのはいつの頃からだったのだろう。
どんな形でも生きてさえいてくれればいい。
その為に自分の存在が邪魔になるならば、いつでも神子の前から去る覚悟はできていた。
「先生、ずっと一緒にいてください」
――夢から覚めた後も、ずっと……。
甘い懇願にリズヴァーンの胸が疼く。
いっそこの夢に溺れてしまえたら。
無意識に――あるいは押さえ込んでいた感情が堰を切ったように、リズヴァーンの腕は、いつの間にか望美の身体を抱き締めていた。
細く、
柔らかい身体。
望美の長い髪がリズヴァーンの腕に絡まるように触れた。
「先生っ」
リズヴァーンの腕の中で望美が歓喜の声を上げるのを。
渇いていた心が瞬間的に満たされるのを。
リズヴァーンは全ての感覚を拒むように固く目を閉じた。
そうしていないと、どこまでも流されてしまいそうな己の欲が恐ろしかった。
ただ、望美を抱く腕に力を込めて、ひどく掠れた声で囁いた。
「今だけだ。夢から覚めればお前は全て忘れるだろう。――それでいい」
私の望みは、お前の生きる未来……それだけだ。
けれど。
リズヴァーンはこのとき己の内にひそやかに芽生えた願いに気付いていた。
――いつか。
この運命の先に進むことができたら。
この螺旋をくぐり抜けることができたなら。
お前と過ごすこの楽園のような未来にまみえることもあるのだろうか……と。
ひらり――舞い落ちる花弁は、神子の見せる夢――ただ、ひとときの……。
〜END〜
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